風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

Kindle本の第1歌集「雉子の来る庭」をKDPしました。右サイドバーのアソシエイト・バナーよりか、AmazonのKindleストアで「柴田哲夫 雉子の来る庭」で検索して、購入画面へ行けます。Kindle価格:250円か、Kindle Unlimitedで、お買い求めくださるよう、お願いします。

歌集

 短歌新聞社「岡部文夫全歌集」(2008年・刊)より、第5歌集「朱鷺」を読み了える。
 
第4歌集「魚紋」は、昨年12月11日の記事にアップした。
概要
 原著は、1947年9月、青垣会・刊。先の「魚紋」より、約9ヶ月後の刊行だった。
 橋本徳寿・序文「岡部君」、464首、著者後記「巻末小記」を収める。
感想
 橋本徳寿は序文で、敗戦の痛苦をしみじみ感じていない者の旺盛な作歌を不思議、美しい、頼もしいと述べ、また同じような者からの第二芸術論その他を空しい言葉だと断じている。序文の末尾で、「君の作品は大いに動きつつあるやうに感じる」と感嘆している。
 自然詠は純化し、主情の歌(相聞歌、家庭詠、産業詠を含む)は純化し、時に混じり合う作品もありながら、手応えは感じているようだ。
 掉尾の歌が「口にいでていまだいふべきことにあらぬひとつの思想昨日よりもちぬ」であって、弱者を踏み越えてでも前進しよう、という思想のように今は受け取れる。
引用

 以下に7首を引く。
笹山の寒きくもりにひびきつつ鶫のこゑかまたしきりなり
冬の光(ひ)はうすらにさむし白白とこの山中の砂に素枯に
(も)ゆる火の余燼のごとしといふなかれいのちかがやきて君を恋ふのみ
ふかき夜を地震(なゐ)に目ざめてひとりなり吾が児の骨は昨日葬りし
闇市に日の暮に来つ雑踏の饐(す)えし空気の黄も堪へがたき
あたたかき乳のコップを卓におきいづこより差すひかりとおもふ

貨車の炭(たん)降りこむ飯(いひ)を食ふ母児(おやこ)いづくをたより引揚げゆかむ
0-06
写真ACより、「おもてなし」のイラスト1枚。




このエントリーをはてなブックマークに追加

 昨日に続き、邑書林「セレクション歌人3 江戸雪集」(2003年・刊)より、「「椿夜」抄」と「「椿夜」以後」を読み了える。
 邑(ゆう)書林の「セレクション歌人」は、歌論集1冊を含めて、全34冊のシリーズである。「別冊セレクション歌論」を除き、平均160ページ、定価1、300円(+税)となっている。
概要
 江戸雪(えど・ゆき)の第2歌集「椿夜」は、2001年、砂子屋書房・刊。
 ながらみ現代短歌賞、咲くやこの花賞(大阪市・主催)文芸部門、受賞。
 「セレクション歌人」になぜ、この「椿夜」を完本で入れなかったか、疑問が残る。
感想
 彼女は結婚しても、心の危機に見舞われたりする。そして、あとがきに「いつのまにか私は詠うことなしには夜もまともに眠れなくなった。」と書くほど、短歌に没頭する。
 妊娠・出産を経ても、わが子可愛い、だけでは済まず、社会との和解は成されない。
 ひらがなの使いどころ、会話体の使い方に、優れている。
 「「椿夜」以後」は、この本で4ページ、23首のみである。
引用

 以下に8首を引く。
くらがりに時がどっぷり充ちていて街のボタンをすべておしたし
たたかったくらいで過去にしないでね坂道くだる長い胴体
川ねかす町にみしみし妊りて目がくらむまで光吐き出す
のぞまれてだいじにされていたりけり夏には夏の柊が立つ
ふゆくさのような髪して子よわれを愛しつづけよ憎みつづけよ
わが身体えぐり生まれしおさなごは月光のごとしずかに坐る
こわいのよ われに似る子が突然に空の奥処を指さすことも
忙しくしている友の声清しわが耳黒いつぼみとおもう
(「「椿夜」以後」より)
0-03
写真ACより、「おもてなし」のイラスト1枚。




このエントリーをはてなブックマークに追加

IMG_0001
 邑書林「セレクション歌人3 江戸雪集」より、歌集「百合オイル」を読み了える。
 本の購入は、昨年12月22日の記事で紹介した。
 また第6歌集
「昼の夢の終わり」の感想は、同じく12月13日の記事にアップした。
概要
 彼女は1966年、大阪府・生まれ。1995年「塔」入会、のち選者。
 原著は、1997年、砂子屋書房・刊。第1歌集。
 彼女は中学~大学と、女子校に学んだ。また10代の頃、熱心に教会に通い、聖書に没頭した。
 それらの特殊性も、彼女が社会に出て苦しむ、1因となったのではないか。
感想
 社会の苦しみ、頼りない青年との恋、別の男性と結婚しての違和感、と彼女の苦しみは絶えないようだ。しかも簡単に許される事さえ、拒もうとする。
 彼女の苦しみの元が、すべて男性原理に由るものではないとしても、男性読者としては心苦しいものがある。
 歌を詠む事で、心身の自傷に至っていないようである事が、救いである。
 心情を述べた句と、叙景あるいは行為の句を、うまく継いでいる。
引用

 以下に7首を引用する。
いらだちをなだめてばかりの二十代立ちくらみして空も揺れたり
ぼちぼちと言いつついつも命がけ雲は静かに崩れてゆけり
膝くらくたっている今あとなにを失えばいい ゆりの木を抱く
跳びあがり摑んだ枝はやわらかく あきらめ方がよくわからない
ひいらぎの咲く門を過ぎこなゆきのふりはじめたり もう逢えないんだ
じいわりと冷えくる朝(あした)夫のシャツはおれば重し他人の生は
ゆるされてしまいたくない 石のうえ干した雨傘風にずれゆく



このエントリーをはてなブックマークに追加

 Amazonの kindle unlimitedより、元旦にパソコンとタブレットへ、3冊をダウンロードした。
 12月6日の記事
「歌集2冊をダウンロード」に次ぐ。
 今回の3冊を、以下に紹介する。

Indle Unlimitedの始め方、使い方
 まずIT研究会・編「Kindle Unlimitedの始め方、使い方」。
 ダウンロードした本の削除方法(同時に10冊までしか保存できないので)が解りにくく、結局発見したのだが、方法を確認できた。またKndle Unlimitedの退会方法も書かれている。
 kindle版・540円、ペーパーバック版・702円。

海、悲歌、夏の雫など 千葉聡
 次いで千葉聡・歌集「海、悲歌、夏の雫など」。
 彼の短歌の噂は、ツイッターなどで目にするけれども、入り口として良いかと思った。
 Kindle版・1,000円。紙本版・2,052円。

耳ふたひら 松村由利子
 次いで松村由利子・歌集「耳ふたひら」。実力のある歌人だと思っているが、まだ歌集を読んでいなかった。これも入り口として。
 Kindle版・1,000円。紙本版・2,160円。
 両歌集とも、書肆侃侃房の現代歌人シリーズの本である。


このエントリーをはてなブックマークに追加

IMG
 今月12日の記事「届いた3冊」で報せた内、初めの橋田東聲・歌集「地懐」を読み了える。
 結社「覇王樹社」に入会して半年の者が、100周年を迎えようとする結社誌の創刊者(主宰)の歌集の感想を書く事は、おこがましいかも知れないが、一応述べてみたい。
概要
 僕が読んだのは、短歌新聞社文庫・版。2002年・刊。
 原著は、1911年(大正10年)、東雲堂・刊。初めに「六つの墓 自序に代ふ」を置き、692首を収める。題名の読み方、意味は僕にわからない。
感想
 父母、甥二人、兄弟二人が亡くなり、歌集後には妻とも離婚し(子はいなかった)、家族に恵まれなかったようだ。
 自身は東大経済学科を卒業し、1919年「覇王樹」創刊、1921年・第1歌集「地懐」発刊と順調のようだったが、1930年に腸チフスにより44歳で死去した。
 「覇王樹」は生き継いで、2020年に100周年を迎えようとしている。
 歌を読む時、客観と主情を混ぜる場合、歌が弱くなる。
 橋田東聲は、生活感において庶民的であり、旅行詠では叙景と生活詠が重なって、優れた歌を生んだ。
 また思い遣りのある歌人らしく、思い遣っての歌、成り代わっての歌が多い。
引用

 以下に7首を引く。
夕かげにおのれ揺れゐる羊歯の葉のひそやかにして山は暮れにけり
小夜床にいのち死にたる父の顔に揺れつゝうつる蠟燭の灯り
茄子もぐとあかつき露にぬれにつゝ妻のよろこぶわが茄子畑
山峡の雪照る道をわが汽車はまがらんとして汽笛(ふえ)ならしたり
合奏のうたにあはせてつなぐ手をかたみに取りつ放ちつするも(露人の踊を見る、…)
おちいりてかろくとぢたる眼瞼(まなぶた)の目脂(めやに)の垢をのごひまゐらす(兄 二)
あきらめてあり経るものを何しかもわれの心のおちゆくかなしさ(同 初七日をすませて…)


このエントリーをはてなブックマークに追加


IMG
 12月19日に届いた、2冊を紹介する。
 まず「COCOONの会」より、「COCOON」Issue06。2017年12月15日・刊。83ページ。
 結社誌「コスモス」内の、若手会員を同人とする歌誌である。現在の若い歌人の歌境を知るためにも、重要である。
 「コスモス」選者、「NHK歌壇」選者の、大松達知さんを発行人とする。

IMG_0001
 今月13日の記事、江戸雪・歌集「昼の夢の終わり」kindle unlimited版の感想で、「これまでの歌集も機会があれば読んでゆきたい」と書いた。
 Amazonで調べてみると、プレミアムのついた本があり、在庫のない本もあった。それで今回、セレクション歌人3「江戸雪集」を買ってみた。2003年、邑書林・刊。
 「百合オイル」全編、「椿夜(抄)」、「「椿夜」以後」、散文、藤原龍一郎の江戸雪論、他を収める。
 今はこの本を読むとしたい。


このエントリーをはてなブックマークに追加

IMG_0001
 今月12日の記事「届いた3冊」で報せた内、清水素子さんの歌集「生の輝き」を読み了える。
 なお前記事で、お名前の漢字を間違えて、失礼致しました。すでに訂正してあります。
概要
 2017年11月、覇王樹社・刊。「覇王樹」代表の佐田毅氏の序文、365首、あとがき、経歴を収める。
 題字も佐田毅氏による。
 「清水素子経歴」に拠ると、1983年、早稲田大学文学部大学院博士課程修了。前年の結婚、1985年の長女出産を経て、1999年、「覇王樹」投稿会員となる。2007年、「覇王樹」同人に昇格。2008年、博士(学術)の学位を取得。
 「覇王樹」誌への投稿・掲載が、生活・研究の安定をもたらしたようだ。
感想
 古典和歌の研究者だが、作歌は新かな・現代文法で、口語短歌の道を歩んだ。
 父の死、東日本大震災を経ながらも、持ち前の向上心と周囲の支えで、研究を続け、仕事を続け、短歌を続けてきたようだ。

 佐保川、東京マラソン(実地見物で)を詠んだ、珍しい歌もある。
引用
 以下に7首を引用する。
やわらかな陽射しをあびる桜道列車から抜け歩みゆきたし(いわきの四季・春)
建立は江戸期以前と聞く寺の人影もなく古刹を保つ(いわき九品寺)
賑やかで人喜ばすこと好きな父の生き方このごろ思う(父の死)
夫は言う小さいことを気にかけず心大きく持てよと我に(夫の言葉)
JR不通の夜に立川で知人が泊めてくれる嬉しさ(東日本大震災)
佐保川は思いがけなく細い川騎馬なら渉って行ける浅さで(佐保川)
がんばれの声と口笛起こるなか走者の視線は遠くを見ている
(東京マラソン)




このエントリーをはてなブックマークに追加

↑このページのトップヘ