風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

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沖積舎

 沖積舎「梅崎春生全集」第4巻(1984年・刊)より、5回めの紹介をする。
 同(4)は、今月2日の記事にアップした。


 今回は、「熊本牧師」「飯塚酒場」「弁慶老人」「西村少年」の4短編小説、255ページ~279ページ、25ページを読んだ。
 「熊本牧師」は日曜学校への登校を、「西村少年」は同級生の恋への嫉妬を描いて、時代を戦前の小学生時代に採っている。
 「飯塚酒場」も、戦中の1943年初め頃の人気酒場で、早く1回分を飲み干して行列の後ろに付く、競争を題材とした。
 「弁慶老人」は、学生やプロの押し売りを撃退する事を楽しみとする、画家・早良十一郎とその隣人・大河内弁慶・老人が、地境の四ツ目垣の根元に植えるもので、諍う話である。
 少年時代、戦中、戦後の些細な事を取り上げながら、宗教や社会への怒りを含めているようだ。
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写真ACより、「秋の人物コレクション」の1枚。



 沖積舎「梅崎春生全集」第4巻(1984年・刊)より、4回めの紹介をする。
 同(3)は、先の9月24日の記事にアップした。



 長編小説「砂時計」を了え、今回は「猫と蟻と犬」「古呂小父さん」「犬のお年玉」「風早青年」の4短編小説を読んだ。
 「猫と蟻と犬」では、年少の秋山画伯が持ち込んだ猫・カロの粗相がひどいので返し、飼い犬・エスの花火嫌いを直すに失敗する話である。秋山画伯は、ビキニ水爆実験の放射能雨を、しきりに気にとめている。
 「古呂小父さん」は、少年の目で父の会社の秋季郊外遠足を描く。不器用な古呂小父さんが、支店長の息子にまで笑い物にされて、しまいには酔って憤慨する。
 「犬のお年玉」では、犬の意地で、1度他の犬が食べた新しい食器では食べない。怒ったり、嘆息しながら飼っている。
 「風早青年」は掌編で、知り合いの風早青年が勝手に納戸に住み着き、結局出て行ってもらうのだが、その際、私は一杯食わされる。
 戦後約10年、日常生活が戻ったかに見えるが、その平安に馴染めない市井の者の心情を描いている。
ヤッターネコ
写真ACより、「猫」のイラスト1枚。





 沖積舎「梅崎春生全集」第4巻より、小説「砂時計」の3回め、しまいの紹介をする。
 同(2)は、先の7月14日の記事にアップした。




 今回は、149ページ~222ページの、74ページ分を読んだ。
 栗山佐助は、夕陽養老院の臨時書記という事で、八木七郎、栗山佐助、夕陽養老院の3者が、仮に結び付く。
 176ページからしまいまで、黒須院長を含む、養老院の経営者会議の場面となる。経営者会議では、在院者たちを老朽物質扱いし、月2名の回転率を院長にノルマに課す。
 経営者たちが散会して、折詰を提げながら出てゆくところを、数匹の野犬に襲われる場面で、長編小説(梅崎春生の最も長い小説でもある)は、ファルスとなる。
 工場騒音、老人施設等の当時新しい社会問題を取り上げた。内面の踏み込みが少なく、成功作とは言い難い。
野犬
写真ACより、「野犬」のイラスト1枚。


 沖積舎「梅崎春生全集」第4巻(1984年・刊)より、巻頭の長編小説「砂時計」(222ページ)の2回めの紹介をする。
 同(1)は、今年2月26日の記事にアップした。



 今回は、69ページ~148ページの、80ページを読んだ。
 失職者の乃木七郎(冒頭で自殺未遂をした者)と、怪しげな白川研究所所員の栗山佐介、夕陽(せきよう)養老院の騒動、3つが結び付かなかった。今回148ページで、日雇いされた乃木七郎を含む1団が、栗山佐助らのカレー粉対策協議会場を、投石で襲った所で、2者が結び付く。逃げ遅れた乃木七郎は、協議会員に捕まってしまう。
 夕陽養老院では、院長が入院者たちとの集団交渉で、押され気味である。
 このあと、どう展開して、どう収束するのか、判らない。作家のお手並み拝見である。
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写真ACより、「アジアンフード&ドリンク」のイラスト1枚。


 

 沖積舎「梅崎春生全集」第4巻に入り、巻頭の長編小説「砂時計」より1回めの紹介をする。
 先行する同・第3巻の仕舞いの紹介は、昨年10月3日の記事にアップした。



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 「砂時計」は、全集で223ページに及ぶ長編小説である。これまでで最長の小説だろう。
 初出は、文学誌「群像」の1954年8月号~1955年7月号である。
 「彼」が鉄路への投身自殺に失敗する場面から始まり、白川社会研究所という実質的に小金持ちへの恐喝を仕事の職場(「彼」らしい人物が、「佐介」の名前で勤めている)、夕陽(せきよう)養老院の話に移り、新院長の横暴と入院者たちの不満とが描かれる。
 市井物を書いて来た梅崎春生が、社会派的な作品を書こうとしたのか。あまり好評でなかったようで、それ以来、社会派的な作品は書いていないようだ。
 今、223ページの内、69ページに至ったのみである。目的の結果は、小出しにするのが良い、という本があり、わずかだが読み了えた所までで、この紹介を書いている。


 沖積舎「梅崎春生全集」第3巻(1984年・刊)より、6回め、しまいの紹介をする。
 同(5)は、先の7月19日の記事にアップした。リンクより、過去記事へ遡れる。

 今回は、「十一郎会事件」、「紫陽花」、「侵入者」(「写真班」、「植木屋」、2編より成る)、「ある少女」の4編を読んだ。
「十一郎会事件」
 画家の早良十一郎が個展を開き、林十一郎を名乗る男(架空の「十一郎会」会員)に絵を騙して借り出されるれるものの、個展の最終日に絵に高級ウィスキーを添えて返される、ミステリーめいた1話である。

「紫陽花」
 野田三郎・青年に学資を支給していた、貴島一策・トミコ夫婦が、突然、毒物自殺してしまって、もう一人の娘さんと共に、支給を打ち切られる話である。理由は不明なままである。
「侵入者」
 「写真班」では、住宅金融公庫の写真班を名乗る男2人に踏み込まれ、勝手に屋内の写真を撮られる。電気屋も、強引に玄関ブザーを取り付けて行く。
 「植木屋」でも植木屋が、強引に庭木を植え付けて行き、あるいは中より抜き去って行く。
 経済が復興に向かう戦後10年、人心はまだ安定しない部分があり、小業者も取り残されそうで、強引になっている。
「ある少女」
 敗戦の年の秋、「私」が16、7歳の娘に外食券食堂で、芋1切れを恵もうとして、拒まれる。しばらくして、その少女はヤミ屋の売人になり、外食券や煙草を売るようになる。5年ほど後、その娘さんが裕福そうな奥様になり、3歳ほどの男児を連れていた、という後日談が付く。梅崎春生は、戦地や敗戦直後を描いて、迫力がある。
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写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。


 沖積舎「梅崎春生全集」第3巻より、5回めの紹介をする。
 同(4)は、先の6月7日の記事にアップした。リンクより、過去記事へ遡れる。

 今回は、「拐帯者」、「春日尾行」、「雀荘」、「クマゼミとタマゴ」、「大王猫の病気」、「ボロ家の春秋」、6編を読んだ。
「拐帯者」
 同(3)の記事にアップした、「拾う」と似たテーマで、突然、大金を手にした男(この場合は会社のお金を持ち逃げしようとしている)が、1晩の遊蕩とアバンチュールに、満足しない。このテーマに、梅崎春生がなぜ拘ったか、わからない。
「春日尾行」

 ミステリーめいた進行で、最後に大団円で決着が付く。推理小説の流行があったのだろうか。
「雀荘」
 ジャン荘ではなく、「スズメ荘」の名のアパート6室(仕切りが3分の1しかない)の住人が、戦後のあぶれ者ばかりで、駆け引きをしながら生活している。
「クマゼミとタマゴ」
 全集で実質2ページの掌編で、同(2)で紹介した「ヒョウタン」と同じく、少年時の回想風の作品である。
「大王猫の病気」
 行き詰まりを宮沢賢治の口語体に救われた(椎名麟三「解説」より)という梅崎春生が、童話を試みた1編である。部下の猫たちに、戦時下の上下関係も見える。童話としては優れていない。
「ボロ家の春秋」
 直木賞を受賞した、名作とされる。
 権利金を騙し取られた「僕」と「野呂」の下宿人が、夜逃げした所有者より家を差し押さえた陳さんに家賃を払う羽目になる。2人は陳さんより、家を買い取り、お互いが家を単独で所有しようと画策する。

 これら近親憎悪は、従軍して生き残った者の、お互いの後ろめたさから来ているようだ。
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写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。


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