風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

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独身

 岩波文庫の一茶「七番日記」(上)より、7回め、しまいの紹介をする。
 同(6)は、今月11日の記事にアップした。




 今回は、文化10年7月~12月(閏11月あり)、387ページ~439ページ、53ページを読んだ。
 年末に、383日・在庵75日、年尾・1123句、と記した。
 定住した北信濃は住み心地が良かったらしく、夏の涼むともなく、山霧の抜ける座敷、冬の炭火などを吟じている。
 51歳での独身を嘆くが、翌年、文化11年には52歳で初めて妻を迎えた。
 以下に5句を引く。
(すずみ)をばし(知)らで仕廻(しまひ)しことし哉
膳先
(ぜんさき)は葎雫(むぐらしづく)や野分吹(ふく)
汁鍋にむしり込(こん)だり菊の花
福豆も福茶も只の一人哉
(ゆく)としや何をいぢむぢ夕千鳥
コチドリ
写真ACより、「コチドリ」の写真1枚。




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 砂子屋書房「葛原妙子全歌集」(2002年・刊)より、歌集「鷹の井戸」を読み了える。
 先行する歌集「朱霊」は、6月25日の記事にアップした。



 歌集「鷹の井戸」は、1977年、白玉書房・刊。
 721首、著者・覚えがきを収める。
 戦争未亡人の森岡貞香、独身を通した元・貴族の富小路禎子と違って、彼女は夫が有能な外科医であっただけである。女権拡張の波の中、歌作りに熱中して、家事はあまりせず家族を困らせたという。
 彼女の浸った豊かさも、現代の僕たちが、ほぼ手に入れたものである。全歌集の口絵写真を見て思うのだが、彼女はただのおばさんだったのではないか。

 以下に7首を引く。正漢字を新漢字に直した所がある。
濃赤に花咲く日ありかのつばき崑崙黒といへるひともと
雪降ると告げたるわれに夫の目の青く光りて応えなかりし
かの廃墟の列柱をみよ人生きて地上にあまたの空間を作りき
おもほえば暗き虚空に人間・花束などの飛ぶ絵を好まず
蔓伸びる斑入りのかづら人々の足もとにくるさまのおもむろ
白夏至の家といふべくひそみゐる猫のゆきかひ人のゆきかひ
差し入れし水中の指仄白しわたくしの手に魚あつまらず
タカ
写真ACより、「タカ」のイラスト1枚。



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 今月18日の記事、入手した4冊(4)で紹介した内、大野英子・歌集「甘籃の扉(かんらんのと)」を読み了える。
2・歌集・甘藍の扉
 2019年9月5日、柊書房・刊。歌数・不明。著者(歌誌「コスモス」選者、他)の第1歌集。著者・あとがきを付す。
 独身のまま、百貨店の仕事に勤しみ、離れ住む両親の世話と、見送りをした生活を、情感を保って歌う事で、救われたようだ。
 父母なく、夫子なく、ただ一人の兄は遠く離れ住み(兄夫婦にも子供がいない)、孤独な生活に入るが、鍛えられた心境は平静なようだ。


 以下に7首を引く。
秋空のたかみに白き尾を引きてゆく旅客機は真昼の彗星
不条理にあれど素早く謝りぬおきやくさまだいいち主義なれば
秋の夜長を楽しみに買ふ椅子ふたつ星見る椅子と読書する椅子
満開に桜咲くあさちちのみの父のたましひは父を去りたり
寝たきりの父が震へる手で書きし「コレガ人生ナラツマラナイ」
幾たびも死に瀕(ひん)したるははそはは大潮に曳かれ逝つてしまへり
来るところまで来たわたし がらんどうの家とこころを残されひとり


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 角川書店「増補 現代俳句大系」第13巻(1980年・刊)より、9番目の句集、寺田京子「日の鷹」を読み了える。
 今月11日の記事、
文挾夫佐恵「黄瀬」に次ぐ。
概要
 原著は、1967年、雪檪書房・刊。349句、著者・後記を収める。
 寺田京子(てらだ・きょうこ、1921年~1976年)は、肺結核のため20余年の療養生活を送る。1960年頃より、放送ライターとして自立。
 1944年に作句を始め、1954年に加藤楸邨「寒雷」に参加、1970年に同門の森澄雄「杉」創刊に参加。
 北海道・在住、生涯独身。
感想
 第1句集「冬の匙」に次ぐ、第2句集である。現代俳句協会賞・受賞。
 戦争と結核に災いされた生涯だと思う。54歳で心肺不全で亡くなっている。
 心の支えを、俳句に求めたのだろう。
 妻の座を、軽く妬む句がある。
 当時の風なのか、字余りの句が多い。「デモに余る力花火に火をつけて」など、政治に関心を持った跡がある。
引用
 以下に5句を引く。
枯風や貼られて生きる戦後の地図
雪迅しもだす嫉妬は手がかわく
花火消え石ら眼をもつ空知川
主婦の名が縛す友の背鷹が飛ぶ
緑噴きあげし山脈妻になれず
0-55
写真ACより、「おもてなし」のイラスト1枚。



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