風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

短編小説

 筑摩書房の「現代日本文学全集 補巻8 上林曉集」より、6編めの短編小説「遲桜」を読み了える。
 先の5月22日に紹介した、「四国路」に次ぐ。


 今回は、48ページ~54ページ、7ページの2章より成る。(一)は、神経症養生院に居る妻を、作家が義父(妻の父)と共に訪ねる場面である。
 義父への語り掛けから入る冒頭は見事である。妻の入院は3年めであり、義父は四国から上京して、初めて院に訪う。患者を家族に会わせない方が良いと、院長は自ら芝居で妻を引き出し、二人に戸の隙間から覗かせる。「徳子を哀れと思つて出る涙なのか、自分を哀れと思つて出る涙なのか、私にはけぢめがつかなかつた。」と記す。
 (二)は翌年、義父と妻の妹が上京して、病状の良い妻が、泊まり無しの1日帰宅をする場面が主である。「父に妹、夫に義妹、二人の子供を加へて、徳子にとつては、夢のやうに賑やかな食事だつた。」と描く。夜には院へ戻り、私は妻に「来週のうちに来るよ。」と約束するが実行せず、10日余り経て妹、義妹、子供達を花見に出す始末である。
 上林曉の妻物は愛妻物として好まれたそうだが、ずいぶん差別的である。いっそ島尾敏雄の「死の棘」のように、妻に付き添って入院するくらいの情があれば、愛妻物と呼び得る。
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写真ACより、「建築」のアイコン1枚。



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 最近に手許に届いた4冊を紹介する。
 僕はNumber誌の「藤井聡太と将棋の天才」Kindle版をダウンロードし、感想を昨年9月14日の記事にアップした。

 今度、同誌の「藤井聡太と将棋の冒険。」(2021年1月・刊)をメルカリで見つけ、300円(送料・込み)で購入した。


 所属する短歌結社「覇王樹」の顧問・渡辺茂子さんが、第3歌集「アネモネの風」を贈って下さった。
 第2歌集「湖と青花」を贈られた時の感想は、2019年10月5日の記事にアップした。

 「アネモネの風」は、2021年5月31日、不識書院・刊。427首、183ページ。画像が間に合わないので、失礼します。

 ぶんか社のマンガ誌「ご近所の怖い噂」vol.167を、Amazonより購入した。ブログの先輩、暁龍さんの「40歳の夜明け」モノクロ32ページが載るからである。430ページ、730円。

 暁龍さんの活躍ぶりは、今月1日の記事、「6月のカレンダー、2種を紹介します」をご参照ください。


 メルカリの「保存した検索条件」で「三浦哲郎」を検索すると、新刊部門で「盆土産と十七の短編」(中公文庫)があり、ポイントで購入した。
 その前の三浦哲郎・作品・読了は、先の5月5日の記事にアップした長編小説「素顔」である。


盆土産と十七の短篇 (中公文庫)
三浦 哲郎
中央公論新社
2020-06-24

 「盆土産と十七の短編」は、中公文庫、2020年9月・再版。946円(税込み、送料無料)。
 初めの2編は既読の記憶があるので、既読本かと思ったが、教科書に載った短編小説ばかりを集めた、オリジナル・アンソロジーらしい。僕の未読の短編小説も載っているようだ。
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 写真ACより、「建築」のアイコン1枚。





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 筑摩書房の「現代日本文学全集 補巻8 上林曉集」より、5編め「四国路」を読み了える。
 先行する「現世図絵」は、今月13日の記事にアップした。


 「四国路」は、1944年(昭和19年)の秋、9年ぶりに四国へ帰郷する物語である。不便な戦争末期で、帰路の困難や、郷土ひとの親切さが描かれる。1946年4月に文芸春秋へ発表の作品だが、しかしこれまで戦争末期を描く短編小説ばかりである。
 石坂洋次郎の「青い山脈」(1947年・刊)とまで言わなくても、永井龍男の「風ふたたび」(1951年・朝日新聞・連載)くらいには、時世に乗って、戦後を明るく描いても良かったのではないか、と考える。なぜ敗戦の直前・直後の暗い部分に執着したかわからない。短編私小説の作家として、動じないものが内にあったのだろうか。
 短編小説家の常として、新作の発表に追われる。「風致区」(1946年1月)、「きやうだい夫婦」(同・2月)、「嶺光書房」(同・1月)、「四国路」(同・4月)発表と、毎月1編のように発表した。
 「四国路」で400字原稿用紙、約29枚である。短編小説の稿料は1枚あたり低かったのだろうか。短編小説の名手と謳われた三浦哲郎でさえ、長編小説へ挑戦し、引き下がった。(自分でそう書いた)。
 短編小説の作家が、ポオ、フィッツジェラルド、O・ヘンリなど(戦前日本の短編私小説作家は知らない)悲惨な晩年だった。ストレスが多く、酒に頼ったからだろうか。
 上林曉(かんばやし・あかつき、1902年~1980年)は、1962年に2度めの脳出血で半身不随となりながら、実妹の介護と口述筆記で作家生活を続けられた。正岡子規と妹・律の場合とたぐえられ、文学の生涯を全うした。
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 写真ACより、「ビジネス」のイラスト1枚。





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 沖積舎「梅崎春生全集」第4巻(1984年・刊)より、7回めの紹介をする。
 同(6)は、今年1月28日の記事にアップした。

 リンクより、過去記事へ遡れる。

 今回は、「益友」、「小さい眼」、「豚と金魚」、「井戸と青葉」の4短編小説、303ページ~345ページ、43ページを読んだ。
 「小さい眼」を除く3編に、山名君という、自分より7つ8つ若い友人が登場し、家に出入りする。
 これまでにも、家に青年が出入りする主題の「犬のお年玉」、「風早青年」などの短編があった。
 今回の3作の山名君は、本業の画家では冴えないが、「私」のためにタケノコを買い付けたり、蜂の巣除去をし、犬を探して持ち込んだり、事情で子豚を持ち込んだり、井戸掘りを手伝わせたりする。

 山名君はフィクションだろう。若くて抜け目がないが、本業で冴えなく、明るい青年を描いて、戦後の希望を託したかと、作家の心理を推測する。

 「小さい眼」は、ミルクホールで会った目の小さいおばあさんに、学生の「おれ」が誤解で憐れまれ、派出看護婦会(おばあさんは会長だった)の家の1室に、半強制で住まわせられ困惑する話である。
 戦後15年を過ぎ、食うには困らないが、まだ貧しい世情を、庶民生活の心理の綾を探って描いた。
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写真ACより、「ガーデニング」のイラスト1枚。




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 「川端康成文学賞 全作品 Ⅰ」(新潮社、1999年・刊)より、1回めの作品、上林曉「ブロンズの首」を読み了える。
 「川端康成文学賞 全作品」2冊を、メルカリで購入したのは、2019年12月の事である。本を購入して1年で読まない本は処分する、という文学者がいるけれども、僕は何年も経てから読み出す場合があるので、処分できない。

川端康成文学賞 全作品 Ⅰ
 川端康成文学賞は、その年の短編小説から選ばれ、第1回は1974年である。
 上林曉「ブロンズの首」は、あるパトロンが彫刻家・久保孝雄に自分(上林曉)のブロンズを創らせ、それが好評だった事と、久保孝雄夫妻との交流を、描いた作品である。
 エッセイ風な身辺雑記である。彫刻家が49歳で亡くなり、追悼の気持ちが沁みている所が救いである。
 私小説の伝統が崩れてきて、こういう作風の受け入れられた時代だった。今ならエッセイ扱いかも知れない。
 上林曉の本は、筑摩書房「増補 決定版 現代日本文学全集 補巻8 上林曉集」(1975年・2刷)と、集英社「日本文学全集 52 上林曉 木山捷平 集」(1980年・2版)を持っているけれども、共に読み入っていない。








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 沖積舎の「梅崎春生全集」第4巻(1984年・刊)より、6回めの紹介をする。
 同(5)は、昨年10月12日の記事にアップした。


 今回は、「時任爺さん」「阪東医師」「葬式饅頭」「遠足」の短編小説4編を読んだ。280ページ~303ページである。
 「時任爺さん」は1946年の青年の視点で、あと3編は、少年の視点で描かれる。
 いずれも庶民のいざこざ=トラブルを描く。また些細な食に絡めている。初出も1956年~1960年であり、「もはや戦後ではない」と言われ、高度成長期に入っていた。しかし梅崎春生は、取り残された庶民を含めて、すべての人が裕福にならなければ、豊かな社会と言えない、という思いがあるようだ。
 僕の「梅崎春生全集」読書の進捗が遅いのは、応接間で読むのも1因である。応接間には空調設備がないので、夏と冬は、あまり居座れないのだ。

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写真ACより、「ウィンターアイコン」の1枚。


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 谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社)第3巻(1978年・5刷)より、3回めの紹介をする。
 同(2)は、今月20日の記事にアップした。



 今回は、短編小説「軽気球虚報」1編のみを読んだ。このあと第3巻には、長編小説「ゴオドン・ピムの物語」しか収まっていないからである。

 「軽気球虚報」は、飛行船(軽気球とはなっているが、楕円形でプロペラ(翻訳ではスクリューとなっている)、舵を備える)で、大西洋横断に成功するフィクションである。イギリスからフランスへ、英仏海峡を越える予定の所が、気流の関係で大西洋横断に方針を替え、75時間で成功する。
 ライト兄弟の初飛行が1903年、リンドバーグの飛行機による大西洋横断は1927年である。1809年・生~1849年・没のポオは飛行機を知らず、飛行船の冒険に想像を馳せるしかなかったのだろう。

飛行船
写真ACより、「飛行船」のイラスト1枚。


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