風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

 お報らせです。2020年2月20日で以って、Kindle本・短編小説「底流」を自力発行致しました。原稿は自分で作成し、表紙はデザイナーさんにお願いしました。上梓は自力で行いました。
 Amazonの「Kindleストア」カテゴリで、「柴田哲夫 底流」と検索すれば、すぐに出て来ます。柴田哲夫は、Kindle版・詩集「詩集 日々のソネット」、「改訂版ソネット詩集 光る波」と同じく、僕のペンネームです。価格は500円ですが、Kindle Unlimited版を追加金無料で購入できます。多くの方のご購読を願っております。

短編小説集

 村上春樹の短編小説集「一人称単数」を読み了える。
 到着は、今月21日の記事、届いた2冊を紹介する(14)にアップした。





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 「一人称単数」」は、2020年7月20日、文藝春秋・刊。8編の短編小説を収める。

 初めの「石のまくらに」は、二十歳にもなっていない「僕」が1夜を共にした娘さんが、数日後、歌集(実は5行歌風)を送ってくれて、今でも机の引き出しにおいて、稀に読む、という話である。娘さんの名前も顔立ちも覚えていないけれど。紋切型でいうなら、「人生は短い。芸術は長い。」の実感だろう。
 「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」は、大学の文芸誌に1文を載せた、という事からフィクションだろう。しかもその1文の内容はフィクションだった。フィクションにフィクションを重ねながら、夢に現れたチャーリー・パーカーがボサノヴァをプレイした事は真実だろう。作者がその夢を実際に見たか否かは別にして。
 「ウィズ・ザ・ビートルズ」は、1種のヰタ・セクスアリスであると共に、15年後にはその相手・サヨコが結婚・2人子を持ちながら、32歳で自死していた事を知る。村上春樹の小説に時々現れるテーマで、彼にトラウマがあるのか願望か。
 「品川猿の告白」は、言葉を覚えた猿が、女性を恋しくなると名前の1部を盗み(女性は自分の名前を忘れたりする)、その名を呼んで耐える、というストーリーである。荒唐無稽ながら、1種実感がある。
 書き下ろしの「一人称単数」では、バーで見知らぬ女性から酷く非難される。「恥を知りなさい」とまで言われて。僕たちも村上春樹の小説に期待する余り、むやみに非難する事は避けたい。
 でも村上春樹は、自身が言っていた、ドストエフスキー流の作家になれるのだろうか、長編小説に期待したい。


 7月18日(第3土曜日)に、県内にお住いの詩人、赤木比佐恵さんの贈って下さった作詞・楽譜集「ミッドナイト ララバイ」が届いた。
 彼女には4冊の詩集、この本を含めて2冊の楽譜集があり、最新詩集「一枚の葉」は、2018年3月29日の記事にアップした。



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 赤木比佐恵さんの作詞した労働歌37曲の楽譜を収め、A4判、114ページ。表紙絵は、アンコールワットの女神である。
 僕は既に返礼の葉書を出した。僕は楽譜を読めないこと、でも大事にする、との旨を。それと現役の辛かった時期に詠んだ短歌、2首を添えて。


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 村上春樹の短編小説集「一人称単数」が出版された。僕はAmazonに予約注文して、本は7月19日(第3日曜日)に届いた。2020年7月20日、文藝春秋・刊。8編を収める。
 村上春樹の小説は久しぶりで、新作は2017年3月5日に記事アップした、「騎士団長殺し」2部以来である。



 もちろん文芸誌「文学界」の2018年7月号以来、順次発表されたが、雑誌を買って読むまでの熱狂的ファンではない。新刊の単行本を買う作家は、村上春樹の小説のみだが、エッセイ集などは文庫本化を待ちたい。




 三浦哲郎の短編小説集「冬の雁(がん)」を読み了える。
 三浦哲郎の作品では、昨年12月8日の記事にアップした、エッセイ集「おふくろの夜回り」以来である。



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 居間の文庫本棚より、読む本を探しているといると、三浦哲郎の「百日紅の咲かない夏」も目に留まったが、テーマが重く長編小説なので、後の機会に譲った。
 「冬の雁」を見てみると、短編小説集なので読むことにした。全17編。
 文春文庫、1989年1刷。古ぼけて、150円のブックオフの値札が貼ってある。本文までヤケていて、僕が喫煙時代(58歳まで)に買った本だろうか。

 初めの「花いちもんめ」は、養女と父親の、相愛的感情が描かれる。
 出身の青森県の方言が行き交う、逞しく生きる人々の物語がある。
 そして現在の、作家と家族の幸せな家庭も描かれる。
 故郷で、脳血栓で倒れ、病院に寝たきりの母親を、何度も見舞うストーリーもある。母親の死の物語は、どこかで読んだ記憶があるが、長い療養中の話は、この本が初めてではないだろうか。
 1族の暗い宿命のストーリーの1つとして「紺の角帯」は、40余年前、兄が失踪する前、恋人に残した一本の角帯を、その女性から贈られるストーリーである。

 エロス、ユーモア、シリアスと、読者をほろりと楽しませてくれる、名短編ばかりである。





 県内にお住まいの詩人・作家・評論家である、定道明さんより贈られた、短編小説集「ささ鰈」を読み了える。
 被贈は、先の5月28日の記事にアップした。リンクには概要を少し書き、関連過去記事へ遡れるので、ご覧ください。



ささ鰈
 2020年6月1日、編集工房ノア・刊。242ページに、10編を収める。
 祖母、母親、叔父、居合わせて倒れた老人、友人、高校生時代(僕が高校の後輩にあたると、初めて知った)の同級生、墓の改修などが淡々と語られる。
 定さんは「中野重治は僕の神様です」と公言する人だから、60年安保で挫折して以来の鬱屈はあるだろうが、それも傘寿近く年齢とともに薄れたのか。
 仕組まれたユーモアや色気はない。
 ひょうひょうとして、とぼけた味わいの作品もある。
 しまいの書き下ろし作品「ホーム」では、家族に唆されて老人ホームの見学に出掛けるが、これほどの県文壇の大人(うし)の晩年を、老人ホームで過ごさせる事になったら残念である。
 なお表紙絵は、鬼灯(ホオズキ)をデザイン化したものと思われる。




 県内にお住いの詩人・作家・評論家である定道明(さだ・みちあき、1940年・生)さんが、短編小説集「ささ鰈」を贈ってくださった。
 定道明さんの本では、2018年2月13日に、短編小説集「外出」を記事アップした。リンクより、過去記事へ遡れる。


 定さんは、略歴だけでも、4冊の詩集、7冊の小説、4冊の評論集(中野重治論)を、刊行している。Wikipediaの「中野重治」の項に、研究者として、名前と著作が載っている。

ささ鰈
 「ささ鰈」(2020年6月1日・付け、編集工房ノア・刊、242ページ)は、10編の短編小説を収める。心境小説に近く、初めエッセイ集かと思ったが、緒編の「犀星道」の主人公が「彼」であり、小説集と気づいた。僕のKindle本・短編小説「底流」の主人公も「彼」であり、名前を明かさない。
 定道明さんも傘寿近くなり、老いの心境、気にかかる思い出を、小説の形で残しておきたい、と思ったのかも知れない。


 森絵都の短編小説集「アーモンド入りチョコレートのワルツ」より、先の1月24日に紹介した「子供は眠る」に続く、2編を読み了える。

 リンクより、関連過去記事へ遡り得る。

 今回読んだのは、「彼女のアリア」と、「アーモンド入りチョコレートのワルツ」である。
 「彼女のアリア」には、J・S・バッハ<ゴルトベルグ変奏曲>より、の副題が付く。
 使われない旧校舎の音楽室でピアノを弾く中三の少女と、同級の男子が出会う物語である。えり子は、「僕」の1ヶ月不眠の悩みを聞いてくれ、自分も不眠症だと慰めてくれ、様々に話し合うようになる。
 boy meets girlの物語である。
 ただし、えり子は虚言症であり、他の男子にも優しいと知り、「僕」は無視するようになる。しかし、卒業式のあと、二人は旧音楽室で和解する。

 「アーモンド入りチョコレートのワルツ」には、エリック・サティ<童話音楽の献立表(メニュー)>より、の副題が付く。
 ピアノ教師の絹子先生、生徒の君絵、奈緒(語り手)の間に、フランスから「サティのおじさん」が現れ、愉快に引っ掻き回して去っていく。「アーモンド入りチョコレートのように生きなさい」がサティのおじさんの教えであった。アーモンド入りチョコレートは僕の好物で、惜しんで食べたものだが、ずいぶん昔である。小説では、数年前、との設定になっている。単行本・発行の1996年の数年前なら、僕の好んだ頃と合っているだろう。


 ワルツは3拍子だから、3編を収めたのだと、途中で気づく僕の迂闊さである。3編とも、美しく終わる。それは別荘での夏の終わり、卒業、帰国など、強制的な終わりのあるストーリーだからでもある。
 夫婦、親子など死ぬまでの関わり、そうでなくとも数十年の職場関係の、悲喜は語られない。後に彼女は、大人の小説を描き、人の一生を感じさせる作品を書くようになる。
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写真ACより、「ケーキ」のイラスト1枚。


 森絵都の短編小説集「アーモンド入りチョコレートのワルツ」3編より、「子供は眠る」を読み了える。
 購入は、昨年12月10日の記事、届いた3冊を紹介する(7)で報せた。



 また彼女の「風に舞いあがるビニールシート」を取り上げた読書会は、昨年12月11日の記事、和田たんぽぽ読書会(2)にアップした。



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 「アーモンドチョコレート入りのワルツ」は、3曲のクラシック曲より紡がれる、3編の小説を収める。角川文庫、2007年7冊。
 初めの「子供は眠る」に、ロベルト・シューマン<子供の情景>より、の副題が付く。
 章の父の別荘に、章を含め5人のいとこが、夏休みに集まる。章はクラシック曲を好み、毎晩LPレコードを聴かせ、その他の面でも暴君である。他の4人は我慢して、英語発音に堪能なことや、背丈が章を越えたことや、水泳で負けないことを隠す。ひょっとしたことから、それらの偽りがバレる。そして中学生5人は和解する。
 僕「今年のぼくは、卑怯だったよ」。
 章「おれなんか、昔から卑怯だよ」。
 子供の純真さから、少年へ移る悲哀があるようだ。
 しかし、彼女の和解、挫折してもこうあるべきだ、には理想主義の匂いがする。


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