風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

短編小説集

 景山民夫の短編小説集「ハイランド幻想」を読む。
 ブログ「風の庫」「サスケの本棚」に共に記事がないので、初めての作家だろう。
ハイランド幻想
 中公文庫、1997年・刊、250ページ。

 景山民夫(かげやま・たみお、1947年~1998年、享年50歳)は、放送作家として大成功のあと、小説家に移った。
 「ハイランド幻想」には、10編の短編小説を収める。
 苦難を越えてハッピーエンドのストーリーの中に、特異な「狸の汽車」が挟まる。狸の古老・権兵衛が、後輩たちの目の前で、日本最初の汽車と化け物対決し、あっけなく敗死する結末である。狸が人を化かす自慢話は、創作の手の内を明かすようだ。汽車が何の比喩か分からない。科学文明を指すのではないだろう。
 表題作「ハイランド幻想」は、日本からネス湖のネッシーを探りに行くストーリーである。ゆるゆると旅を楽しむが、ベンチより夜のネス湖に大きな黒い影が横切っても、ウィスキーの瓶と共にホテルへ戻ってしまう。すべてのフィクションが空しい、というように。


 吉本ばななの短編小説集「デッドエンドの思い出」を読み了える。
 到着は今月20日の記事、届いた2冊を紹介する(18)で報せた。




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 リンクでは、ブログ開始の2016年9月より載っていないと書いたけれども、2007年4月開始の旧ブログ「サスケの本棚」にも載っていないので、13年以上ぶりの吉本ばななの本である。

 「デッドエンドの思い出」は、文春文庫、2007年4刷。「幽霊の家」「『おかあさーん』」「あったかくなんかない」「ともちゃんのしあわせ」「デッドエンドの思い出」、5編を収める。
 娘さんが障害を越えて、恋人と結ばれるストーリーが多い。恋人の8年間のフランス留学、毒物カレー事件、好きな中年男性に恋人がいた、などをクリアして結ばれる。
 「あったかくなんかない」では、幼い仲良しの男児が無理心中に巻き込まれて亡くなるけれども、幸せだった時を回想して結末となる。表題作「デッドエンドの思い出」は失恋物語だけれど、周囲に親切にされて、爽やかな光景で括られている。
 発表後の反響は良く、大きな展開があったと、文庫版あとがきに書かれている。


 村上春樹の短編小説集「一人称単数」を読み了える。
 到着は、今月21日の記事、届いた2冊を紹介する(14)にアップした。





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 「一人称単数」」は、2020年7月20日、文藝春秋・刊。8編の短編小説を収める。

 初めの「石のまくらに」は、二十歳にもなっていない「僕」が1夜を共にした娘さんが、数日後、歌集(実は5行歌風)を送ってくれて、今でも机の引き出しにおいて、稀に読む、という話である。娘さんの名前も顔立ちも覚えていないけれど。紋切型でいうなら、「人生は短い。芸術は長い。」の実感だろう。
 「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」は、大学の文芸誌に1文を載せた、という事からフィクションだろう。しかもその1文の内容はフィクションだった。フィクションにフィクションを重ねながら、夢に現れたチャーリー・パーカーがボサノヴァをプレイした事は真実だろう。作者がその夢を実際に見たか否かは別にして。
 「ウィズ・ザ・ビートルズ」は、1種のヰタ・セクスアリスであると共に、15年後にはその相手・サヨコが結婚・2人子を持ちながら、32歳で自死していた事を知る。村上春樹の小説に時々現れるテーマで、彼にトラウマがあるのか願望か。
 「品川猿の告白」は、言葉を覚えた猿が、女性を恋しくなると名前の1部を盗み(女性は自分の名前を忘れたりする)、その名を呼んで耐える、というストーリーである。荒唐無稽ながら、1種実感がある。
 書き下ろしの「一人称単数」では、バーで見知らぬ女性から酷く非難される。「恥を知りなさい」とまで言われて。僕たちも村上春樹の小説に期待する余り、むやみに非難する事は避けたい。
 でも村上春樹は、自身が言っていた、ドストエフスキー流の作家になれるのだろうか、長編小説に期待したい。


 7月18日(第3土曜日)に、県内にお住いの詩人、赤木比佐恵さんの贈って下さった作詞・楽譜集「ミッドナイト ララバイ」が届いた。
 彼女には4冊の詩集、この本を含めて2冊の楽譜集があり、最新詩集「一枚の葉」は、2018年3月29日の記事にアップした。



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 赤木比佐恵さんの作詞した労働歌37曲の楽譜を収め、A4判、114ページ。表紙絵は、アンコールワットの女神である。
 僕は既に返礼の葉書を出した。僕は楽譜を読めないこと、でも大事にする、との旨を。それと現役の辛かった時期に詠んだ短歌、2首を添えて。


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 村上春樹の短編小説集「一人称単数」が出版された。僕はAmazonに予約注文して、本は7月19日(第3日曜日)に届いた。2020年7月20日、文藝春秋・刊。8編を収める。
 村上春樹の小説は久しぶりで、新作は2017年3月5日に記事アップした、「騎士団長殺し」2部以来である。



 もちろん文芸誌「文学界」の2018年7月号以来、順次発表されたが、雑誌を買って読むまでの熱狂的ファンではない。新刊の単行本を買う作家は、村上春樹の小説のみだが、エッセイ集などは文庫本化を待ちたい。




 三浦哲郎の短編小説集「冬の雁(がん)」を読み了える。
 三浦哲郎の作品では、昨年12月8日の記事にアップした、エッセイ集「おふくろの夜回り」以来である。



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 居間の文庫本棚より、読む本を探しているといると、三浦哲郎の「百日紅の咲かない夏」も目に留まったが、テーマが重く長編小説なので、後の機会に譲った。
 「冬の雁」を見てみると、短編小説集なので読むことにした。全17編。
 文春文庫、1989年1刷。古ぼけて、150円のブックオフの値札が貼ってある。本文までヤケていて、僕が喫煙時代(58歳まで)に買った本だろうか。

 初めの「花いちもんめ」は、養女と父親の、相愛的感情が描かれる。
 出身の青森県の方言が行き交う、逞しく生きる人々の物語がある。
 そして現在の、作家と家族の幸せな家庭も描かれる。
 故郷で、脳血栓で倒れ、病院に寝たきりの母親を、何度も見舞うストーリーもある。母親の死の物語は、どこかで読んだ記憶があるが、長い療養中の話は、この本が初めてではないだろうか。
 1族の暗い宿命のストーリーの1つとして「紺の角帯」は、40余年前、兄が失踪する前、恋人に残した一本の角帯を、その女性から贈られるストーリーである。

 エロス、ユーモア、シリアスと、読者をほろりと楽しませてくれる、名短編ばかりである。





 県内にお住まいの詩人・作家・評論家である、定道明さんより贈られた、短編小説集「ささ鰈」を読み了える。
 被贈は、先の5月28日の記事にアップした。リンクには概要を少し書き、関連過去記事へ遡れるので、ご覧ください。



ささ鰈
 2020年6月1日、編集工房ノア・刊。242ページに、10編を収める。
 祖母、母親、叔父、居合わせて倒れた老人、友人、高校生時代(僕が高校の後輩にあたると、初めて知った)の同級生、墓の改修などが淡々と語られる。
 定さんは「中野重治は僕の神様です」と公言する人だから、60年安保で挫折して以来の鬱屈はあるだろうが、それも傘寿近く年齢とともに薄れたのか。
 仕組まれたユーモアや色気はない。
 ひょうひょうとして、とぼけた味わいの作品もある。
 しまいの書き下ろし作品「ホーム」では、家族に唆されて老人ホームの見学に出掛けるが、これほどの県文壇の大人(うし)の晩年を、老人ホームで過ごさせる事になったら残念である。
 なお表紙絵は、鬼灯(ホオズキ)をデザイン化したものと思われる。




 県内にお住いの詩人・作家・評論家である定道明(さだ・みちあき、1940年・生)さんが、短編小説集「ささ鰈」を贈ってくださった。
 定道明さんの本では、2018年2月13日に、短編小説集「外出」を記事アップした。リンクより、過去記事へ遡れる。


 定さんは、略歴だけでも、4冊の詩集、7冊の小説、4冊の評論集(中野重治論)を、刊行している。Wikipediaの「中野重治」の項に、研究者として、名前と著作が載っている。

ささ鰈
 「ささ鰈」(2020年6月1日・付け、編集工房ノア・刊、242ページ)は、10編の短編小説を収める。心境小説に近く、初めエッセイ集かと思ったが、緒編の「犀星道」の主人公が「彼」であり、小説集と気づいた。僕のKindle本・短編小説「底流」の主人公も「彼」であり、名前を明かさない。
 定道明さんも傘寿近くなり、老いの心境、気にかかる思い出を、小説の形で残しておきたい、と思ったのかも知れない。


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