風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

 お報らせです。2020年2月20日で以って、Kindle本・短編小説「底流」を自力発行致しました。原稿は自分で作成し、表紙はデザイナーさんにお願いしました。上梓は自力で行いました。
 Amazonの「Kindleストア」カテゴリで、「柴田哲夫 底流」と検索すれば、すぐに出て来ます。柴田哲夫は、Kindle版・詩集「詩集 日々のソネット」、「改訂版ソネット詩集 光る波」と同じく、僕のペンネームです。価格は500円ですが、Kindle Unlimited版を追加金無料で購入できます。Kindle版の無料キャンペーンも随時行ないます。多くの方のご購読を願っております。

編集工房ノア

 県内にお住いの詩人・作家・評論家である定道明(さだ・みちあき、1940年・生)さんが、短編小説集「ささ鰈」を贈ってくださった。
 定道明さんの本では、2018年2月13日に、短編小説集「外出」を記事アップした。リンクより、過去記事へ遡れる。


 定さんは、略歴だけでも、4冊の詩集、7冊の小説、4冊の評論集(中野重治論)を、刊行している。Wikipediaの「中野重治」の項に、研究者として、名前と著作が載っている。

ささ鰈
 「ささ鰈」(2020年6月1日・付け、編集工房ノア・刊、242ページ)は、10編の短編小説を収める。心境小説に近く、初めエッセイ集かと思ったが、緒編の「犀星道」の主人公が「彼」であり、小説集と気づいた。僕のKindle本・短編小説「底流」の主人公も「彼」であり、名前を明かさない。
 定道明さんも傘寿近くなり、老いの心境、気にかかる思い出を、小説の形で残しておきたい、と思ったのかも知れない。


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 今月5日の記事「届いた2冊」で報せた内、定道明さんの短編小説集「外出」を読み了える。
 なおリンクより、前の短編小説集「風を入れる」の紹介へ遡り得る。
概要
 「外出(がいしゅつ)」は、2018年2月1日、編集工房ノア・刊。帯、カバー、249ページ。9編の短編小説を収める。
 初出は、「青磁」(2編)、「イリプス」(5編)、「海鳴り」(1編)、書き下ろし1編である。
 彼は詩人、小説家、評論家であり、端整な詩を書き、Wikipediaの「中野重治」の項に、研究者として名前と著書が載っている。
感想
 冒頭の「川蟬色の記憶」は、夫婦連れで蟋蟀橋の紅葉を観に来た男性が、若い頃、わずかに好意を持ち合った女性(赤ん坊を背負っている)と出会い、名乗らぬままわずかに会話を交わす話である。その女性が幸福そうではないが、気に掛ける訳にも行かない、という心残りのまま常識的に振る舞って終わる。
 「落ちていた雀」では義父(妻の父)を、「Jの終り方」では交流のあったJ老人とその周囲の人への、対象人物の死後のオマージュである。それぞれの特性を捉えている

 「505号室」は、長く不和だった娘が、手術を受ける大病をし、「私」と和解する話のように思える。次の1節がある。「我に返った人々は納得して現実の生活に戻って行く。そしてそれから、幸も不幸もある。」 しかし納得できなかった人は、歌人・竹山広のように、長く長く内心の戦いを続ける。
 諸編で、一人での旅、妻との旅、思い出、故人へのオマージュ等、エピソードは行き来して、本筋に戻り決着が付けられる。
 書き下ろし「スパティフィラムの花」は、母親の葬儀の進行に従う。葬儀社の「沢田君」の手腕によって、「彼」に「…おふくろも安まると思うね」と言わせるほど、納得の葬儀だったとする。「彼」は50年かかって合理主義を身に付けたが、「世の中に学歴のない知恵者はいっぱいいた」と嘆く。
 了いの「能登路」は、妻と何度目かの能登再訪をし、過去の思い出が語られる。そして「彼」と親密でもなかった妻「梢」との、和解を予感させる場面で終わっている。


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 先の2月2日(金曜日)に、2冊の本が届いた。
 1冊は、郷土の文学者(詩、小説、評論を執筆)の定道明さんがご恵贈くださった、小説集「外出」である。
 2018年2月1日、編集工房ノア・刊。
 その前の
小説集「風を入れる」は、昨年2月12日の記事で紹介した。
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 もう1冊は、藤野早苗・歌集「王の夢」である。
 Amazonのマーケットプレイスで、ネットオフに注文していた本。
 娘さんが中学校で不登校になった(現在は大学で学んでいる)事からの回復を含めて、歌集に収載との事をブログかフェイスブックで知り、早速求めた。
 新本(2014年11月20日、本阿弥書店・刊)を求めるべき所を、Amazonに新本の在庫はなく、マーケットプレイスで古本を買うよりなかった。状態段階は「非常に良い」表示だったけれど、帯にイタミがあった。本文はきれいである。
 いずれも読み了えたなら、ここで紹介したい。




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 県内にお住まいの詩人・作家・評論家の定道明(さだ・みちあき)さんが送って下さった、小説集「風を入れる」を読みおえる。
 本の到着は、今月2日の記事、
「届いた2冊」で報せた。
 2017年2月1日、編集工房ノア・刊。
 定さんは、高校教師時代より、旺んな創作活動を続け、詩集「薄目」「糸切歯」「朝倉螢」他、小説集「立ち日」「鴨の話」「杉堂通信」他、中野重治・論「中野重治私記」「中野重治伝説」「中野重治近景」他を、上梓した。
 この本は、定さんが中心となる文学同人誌「青磁」に初出の、5編の短編小説集である。
 主人公は、三人称が多いながら心境小説に近く、定年後の余裕も鬱屈もある生活が描かれる。
 「黒壁夜色」は、車で夫婦が従兄の葬儀のため滋賀県長浜を訪い、前日に妻は娘と孫に逢い(「佐伯」は娘と義絶している)、佐伯は古物商を尋ねるが閉店しており、焼鳥屋で飲む羽目となる。
 「羽昨まで」は、羽昨を訪う話だが、ストーリーは50年以上前の60年安保の敗北とその後をいかに潜ったか、犠牲者の話も交えつつ語り、能登上布の制作展を観る現在に戻る。
 「風を入れる」は、「加納」が田舎にある先祖代々の家に、風を入れるために戻り、出会う人や過去を自在に語る。
 「和食堂柘植(つげ)」は、「私」が軽井沢の和食堂「柘植」のソムリエ・熊澤君と知り合い、何度めかの訪問と談話を果たす話である。小さな中古物件を欲しがって、タクシー運転手にまで窘められるサイドストーリーもある。
 「柿谷の場合」は、「柿谷」が定年後にキャンピングカーを買って旅に出たいとする話を初めと終わりに置き、同級生たちと焼鳥屋で飲む例会など、生活の陰翳が描かれる。
 大きな破綻のない生活を送って定年後を迎え、老いに入る男性の、心境が描かれている。


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