風の庫

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芸術的前衛

 角川ソフィア文庫「西東三鬼全句集」より、第4句集「今日」を読み了える。
 第3句集「夜の桃」は、今月20日の記事にアップした。



 「今日」は、1952年、天狼俳句会・刊。平畑静塔・序(文庫には不掲載)、著者・後記と共に収める。
 当時、関西に居を転々とした。「天狼」同人の平畑静塔、秋元不死男、橋本多佳子、高屋窓秋、他に沢木欣一、角川源義ら、俳人との交流は広く深かったようである。
 1948年以降、戦後の荒廃を残しつつ、1951年まで復興に向かう日本の景と情が吟じられる。家庭では、妻と別居、後の妻、愛人と、家庭的ではなかったようである(小林恭二・解説より)。芸術的前衛かつ政治的前衛たらんとすると、家庭が壊れるというのは、歌人の岡井隆と同じであると思う。

 以下に5句を引く。
春山を削りトロッコもて搬ぶ
麦熟れてあたたかき闇充満す
孤児孤老手を打ち遊ぶ柿の種
冬雲と電柱の他なきも罰
歩く蟻飛ぶ蟻われは食事待つ
0-19
写真ACより、「アジアンフード&ドリンク」のイラスト1枚。


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 角川ソフィア文庫「西東三鬼全句集」より、第1句集「旗」を読み了える。
西東三鬼全句集 (2)
 全句集は、2018年・3刷。入手のいきさつは、2018年5月25日の記事、2冊を入手、で述べたのでご覧ください。


 原著は、1940年、三省堂・刊。自序、209句を収める。
 西東三鬼(さいとう・さんき、1900年~1962年)は、33歳で晩く俳句を始め、「京大俳句」に加入。「天香」創刊。
 1940年、京大俳句弾圧事件で検挙され、執筆停止となる。戦後は俳句を復活させる。

 「旗」では、キリスト教への関心、戦火想望俳句→厭戦的俳句、が混じる。既に口語調なのも新しい。
 芸術的前衛が、政治的前衛に向かう、時代的切迫があったのだろう。

 以下に5句を引く。
不眠症魚は遠い海にゐる
僧を乗せしづかに黒い艦が出る
空港に憲兵あゆむ寒き別離
機関銃熱キ蛇腹ヲ震ハスル
青き湖畔捕虜凸凹と地に眠る



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 土曜美術社・日本現代詩文庫27「関根弘詩集」より、しまいの詩集「奇態な一歩」全編を読み了える。
 今月9日の記事、同「『街』より」に次ぐ。リンクより、以前の関根弘の詩集へ遡り得る。
 このアンソロジーの5詩集より、僕が紹介するのは、3詩集のみである。
概要
 原著は、1989年(69歳)、土曜美術社・刊。29編の詩を収める。
 三省堂「現代詩大辞典」(2008年・刊)に依ると、彼は1994年に74歳で亡くなっており、この詩集以後の詩集はないようだ。
 ルポルタージュ、評論、小説、戯曲などでも活躍した。
感想

 彼は晩年、人工透析を受け、詩集の初めの表題作「奇態な一歩」に表した。「仲間が何人もベッドに頭を並べている/自分一人で世界の不幸を/背負った気になるのは早すぎた//一風呂浴びたような顔をして/帰っていくものがいる」と、苦しみをユーモアに転化した。
 次作の「病床のバラ」の末尾には、「生まれてきて損したよ」との感慨を洩らす。僕は生まれて来て良かったとは思わないが、「損した」とは思わない。様々な喜びを得た。
 詩集の末尾には、神社、お寺をめぐっての作品が多くなる。信仰に入ってはいない。
 政治的前衛かつ芸術的前衛である道は、困難なようだ。
 後は詩論2編、解説1編、年譜が残っている。
0-15
写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。


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