風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

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角川文庫

 大崎善生の小説「パイロットフィッシュ」を読み了える。
 購入は先の2月27日の記事、届いた5冊を紹介する(3)にアップした。


 大崎善生の小説の、直近の感想は、先の2月13日の記事にアップした。


パイロットフィッシュ (角川文庫)
大崎 善生
KADOKAWA
2012-10-01

 先の「ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶」を、ブログで酷評したところ、ブロ友さんより、この本を読んで感動したと、勧められたのだった。
 2006年9版、247ページ。
 僕こと山崎が、地理オンチのままアルバイト応募先を探しあぐねて入った喫茶店に、一人で泣いている娘さんがいて声をかけ、3ヶ月後に落ち込みの果て電話をかけ、再会をする。由希子は、山崎隆二の就職先、文人出版(編集長・沢井速雄)を見つけてくれるが、エロ雑誌「月刊エレクト」が主な出版だった。それでも山崎は19年勤め続ける。
 高校・大学時代からの友人・森本は、大手の会社の営業マンとなりながら、アルコール依存症となり入院する。由希子の友人・伊都子と性関係を持った(伊都子は友人の彼氏と関係を持つ習癖がある)事で、しばらくで二人は別れてしまう。現在、沢井・編集長は亡くなり、山崎には七海という恋人がいる。19年ぶりに、1女の母となった由希子と僕・山崎は再会するが、ビアホールに入り、そのあとプリクラを撮って別れる。由希子の夫の不倫相手は伊都子である。
 題名のパイロットフィッシュは、高級な熱帯魚を飼う前、水槽のバクテリア状態を良くするためのみの用途で飼われる初心者向けの熱帯魚を指す。この小説では、僕が学生アルバイトをしたロック喫茶のマスター一家が、山崎と由希子を親しく歓待し続けてくれたけれども、大韓航空機事件に遭って亡くなった事を指すらしい。
 僕が長々とストーリーを書いたのは、1節ごとくらいに時制が激しく行き来するので、時制を一本に直して理解するために、必要だからである。
 この小説のテーマを表す初めの2行は、以下の通りである。「人は、一度巡り合った人と二度と別れることはできない。なぜなら人間には記憶という能力があり、そして否が応にも記憶とともに現在を生きているからである。」
ヒヤシンスa
写真ACより、「ヒヤシンス」のイラスト1枚。



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 江國香織の小説「冷静と情熱のあいだ」を読み了える。
 彼女の小説の紹介は、今年7月27日の記事、「なつのひかり」以来である。

 なお今年9月12日に、エッセイ集「泣かない子供」の感想をアップした。

冷静と情熱のあいだ
 「冷静と情熱のあいだ」は、角川文庫、2001年・9版、275ページ。
 イタリアのミラノでマーヴというアメリカ人と同棲する日本人アオイが主人公である。穏やかなマーヴ、優しい周囲の人に囲まれながら、アオイにはフラッシュバックする記憶がある。日本の帰国子女大学で出会った阿形順正であり、「私のすべて」と信じたが、人工妊娠中絶を許されず、別れた。
 その10年後、阿形順正から1通の手紙が届き、アオイとマーヴは別れる。2人の10年前の約束通り、フィレンツェのドゥオモ(イタリアで街を代表する教会堂)で、アオイと順正は再会する。「嵐のような三日間だった。嵐のような、そして、光の洪水のような。」を送ったあと、アオイはマーヴと別れた事を言い出せず、2人は別れる。
 若い時代の一途な恋と挫折が、穏やかな生活に沈み込ませず、幸せになれない。僕は少し泣いた。
 引用の1文でもわかるように、文体は叙述の歩行をやめ、時に舞踏する。彼女には、出版された詩集がある。



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 江國香織のエッセイ集「泣かない子供」を読み了える。
 知っているエピソードがある、と調べると、先のブログ「サスケの本棚」の2010年1月27日の記事に、アップしていた。




泣かない子供
 角川文庫、2002年5刷。10年以上隔てていると、忘れた部分も多く、楽しく読めた。
 やはり1番面白いのは、事務処理能力に長けた妹を描く「妹の不在とその影響」である。著者が5社からの締切が迫ってパニックになっていると、妹が冷静にスケジュールを組み立てる、という場面である。
 「世のなかの、善いもの、美しいもの」で称賛している、ヒメネス「プラテーロ」は僕も読んだ事がある。
 第Ⅲ章は、読書日記で、お気に入りの12編を、短く紹介している。
 第Ⅴ章には、「なぜ書くか」という、根本に触れたエッセイがある。リラックスしている時に、「なぜ書くのか、あなたの文学に対する姿勢を問う」などと電話されて、迷惑がりながら、その答えを出している。
 江國香織の小説を読む人は、エッセイ集も読めば、親しみが湧くだろう。


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 森絵都のYA(ヤング アダルト)小説、「つきのふね」を読み了える。
 同・「カラフル」の感想は、今月19日の記事にアップした。




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 「つきのふね」は、角川文庫、2008年、10刷。単行本:1998年・講談社・刊。
 中学生のさくら(話者)と梨利、勝田君、それに優しいけれども現実を離れてゆく智さん、の物語である。
 勝田君が智さんを救おうと、苦し紛れに書いた偽の預言書の預言へ向かって、場面は大団円に向かう。

 最近、紙の本を読む事が多いようだ。Kindle本の出て来た時、紙の本は無くなるんじゃないか、という勢いだった。しかしKindle本に優れた本が現れない。
 著作権の切れた文人の他称・全集が、99円、200円で出回って、マニアを喜ばせただけだ。多くの作家は抵抗し、インディーズ作家も伸びない。
 大家の本がKindle出版される事があるが、高価である。
 ガイド本などが、わずかにKindle Unlimited版で出回って、利用されているだけらしい。
 電子書籍の現れた時の夢は、どこへ行ったのだろう。


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 森絵都の短編小説集「アーモンド入りチョコレートのワルツ」3編より、「子供は眠る」を読み了える。
 購入は、昨年12月10日の記事、届いた3冊を紹介する(7)で報せた。



 また彼女の「風に舞いあがるビニールシート」を取り上げた読書会は、昨年12月11日の記事、和田たんぽぽ読書会(2)にアップした。



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 「アーモンドチョコレート入りのワルツ」は、3曲のクラシック曲より紡がれる、3編の小説を収める。角川文庫、2007年7冊。
 初めの「子供は眠る」に、ロベルト・シューマン<子供の情景>より、の副題が付く。
 章の父の別荘に、章を含め5人のいとこが、夏休みに集まる。章はクラシック曲を好み、毎晩LPレコードを聴かせ、その他の面でも暴君である。他の4人は我慢して、英語発音に堪能なことや、背丈が章を越えたことや、水泳で負けないことを隠す。ひょっとしたことから、それらの偽りがバレる。そして中学生5人は和解する。
 僕「今年のぼくは、卑怯だったよ」。
 章「おれなんか、昔から卑怯だよ」。
 子供の純真さから、少年へ移る悲哀があるようだ。
 しかし、彼女の和解、挫折してもこうあるべきだ、には理想主義の匂いがする。


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 最近に手許に届いた3冊を紹介する。
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 同人詩誌「青魚」No.91が届いた。2019年12月5日、鯖江詩の会・刊。
 B5判、33ページ。頒価:500円。

 同・No.90の感想は、今年6月15日の記事にアップした。



 同・No.91に、僕は6編のソネットを寄せた。作品は、もう1つのブログ「新サスケと短歌と詩」の12月9日の記事、ソネット「遅刻」より、毎日1編ずつ連載するので、横書きながらお読みください。



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 森絵都の小説、2冊を買った。いずれも角川文庫。メルカリで、2冊セット:449円だった。僕はわずかなポイントも使って支払った。
 今月5日の記事にアップした、彼女の短編小説集「風に舞いあがるビニールシート」の印象が良かったからである。



 身の回りに、最近に買った本、受贈した本が多いようだが、1冊ずつ読むのみである。


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 今村夏子の短編小説集「あひる」を読み了える。
 6月10日の記事、同「こちらあみ子」に次ぐ。

 角川文庫、2019年1月25日・刊。
 短編小説「あひる」、「おばあちゃんの家」、「森の兄妹」、3編を収める。
 「こちらあみ子」(旧題「あたらしい娘」)に次いで、「あひる」は芥川賞候補となり、河合隼雄物語賞を受賞した。

「あひる」

 両親と住む「わたし」の家の鶏小屋で、あひるを飼う事になる。「わたし」は医療系資格の勉強中で、まだ仕事をした事がない。あひるに惹かれて、子供たちが集まるようになり、両親も歓迎する。あひるが1ヶ月程で病気になり、病院に父が連れて行き、帰って来るが、わずかに違うように「わたし」には思われる。3回めが死に、庭に墓を立て、3羽が違う鳥であったと両親の偽計がバレる。
 10年前に家を出た弟が、結婚8年めで子を儲けて帰宅する事になり、家の増築工事の場でおわる。
「おばあちゃんの家」
 主人公「みのり」の家族とは血のつながらない、おばあちゃんが敷地内の建物・インキョに住んでいる。親切なおばあちゃんだが、痴呆(?)が始まり、逆に知的・体力的に元気になる様を描く。
「森の兄妹」
 母子家庭の兄妹、モリオとモリコが、小屋に住むおばあさんから、窓を通して飴を貰ったり、実る枇杷の実を全部持って行って良いと言われる。おばあさんの家で、その家族より誕生日祝いされるのをモリオが目撃して、兄妹は小屋に行かなくなる。

 子供たち、非就業者、おばあさん(高齢者)、それぞれ1人前に見做されない者たちと、その周囲を描いて、現代の1面を切り取っている。





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