風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

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記憶

 筑摩書房の「上林曉集」より、先の3月13日の記事にアップした、「きやうだい夫婦」に続き、3作品めの「嶺光書房」を読み了える。


 1945年の2月の20日過ぎ、「私」が「嶺光書房」(「筑摩書房」のこと)を訪ね、著作(第9創作集「夏暦」のこと)を出版してもらう経緯を書いている。嶺光書房は空襲の被害で、会社の地を転々とした。原稿も、1度は空襲で焼かれながら、作者は雑誌に出した作品を集め、書き下ろしで草稿も何もない作品(本の主柱となる)は記憶を頼りに再度書き上げ、嶺光書房に持ち込むことが出来た。たいていの人なら諦める状況で、凄まじい執念である。今ならコピーが出来、パソコンに保存することも出来るが。
 永井荷風や太宰治も仮名で出て来て、当時の避災の様子が知れる。作者と社長・他が、ずいぶん反戦的なことを口にしてしているが、まともに受け取ってはいけない。空襲を何度も受けるなど、敗戦の様が予想され、庶民の間に厭戦気分が蔓延した頃の会話で、戦争初期には大いに煽ったのであろう。
 戦前からの作家でありながら、この集が戦後の1946年発表の「風致区」から始まっている点も不審だった。全19巻の全集では明らかだろうが、それを図書館で借りて探索するいとまは、僕にはない。
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写真ACより、「ガーデニング」のイラスト1枚。



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 大崎善生の小説「パイロットフィッシュ」を読み了える。
 購入は先の2月27日の記事、届いた5冊を紹介する(3)にアップした。


 大崎善生の小説の、直近の感想は、先の2月13日の記事にアップした。


パイロットフィッシュ (角川文庫)
大崎 善生
KADOKAWA
2012-10-01

 先の「ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶」を、ブログで酷評したところ、ブロ友さんより、この本を読んで感動したと、勧められたのだった。
 2006年9版、247ページ。
 僕こと山崎が、地理オンチのままアルバイト応募先を探しあぐねて入った喫茶店に、一人で泣いている娘さんがいて声をかけ、3ヶ月後に落ち込みの果て電話をかけ、再会をする。由希子は、山崎隆二の就職先、文人出版(編集長・沢井速雄)を見つけてくれるが、エロ雑誌「月刊エレクト」が主な出版だった。それでも山崎は19年勤め続ける。
 高校・大学時代からの友人・森本は、大手の会社の営業マンとなりながら、アルコール依存症となり入院する。由希子の友人・伊都子と性関係を持った(伊都子は友人の彼氏と関係を持つ習癖がある)事で、しばらくで二人は別れてしまう。現在、沢井・編集長は亡くなり、山崎には七海という恋人がいる。19年ぶりに、1女の母となった由希子と僕・山崎は再会するが、ビアホールに入り、そのあとプリクラを撮って別れる。由希子の夫の不倫相手は伊都子である。
 題名のパイロットフィッシュは、高級な熱帯魚を飼う前、水槽のバクテリア状態を良くするためのみの用途で飼われる初心者向けの熱帯魚を指す。この小説では、僕が学生アルバイトをしたロック喫茶のマスター一家が、山崎と由希子を親しく歓待し続けてくれたけれども、大韓航空機事件に遭って亡くなった事を指すらしい。
 僕が長々とストーリーを書いたのは、1節ごとくらいに時制が激しく行き来するので、時制を一本に直して理解するために、必要だからである。
 この小説のテーマを表す初めの2行は、以下の通りである。「人は、一度巡り合った人と二度と別れることはできない。なぜなら人間には記憶という能力があり、そして否が応にも記憶とともに現在を生きているからである。」
ヒヤシンスa
写真ACより、「ヒヤシンス」のイラスト1枚。



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 江國香織の小説「冷静と情熱のあいだ」を読み了える。
 彼女の小説の紹介は、今年7月27日の記事、「なつのひかり」以来である。

 なお今年9月12日に、エッセイ集「泣かない子供」の感想をアップした。

冷静と情熱のあいだ
 「冷静と情熱のあいだ」は、角川文庫、2001年・9版、275ページ。
 イタリアのミラノでマーヴというアメリカ人と同棲する日本人アオイが主人公である。穏やかなマーヴ、優しい周囲の人に囲まれながら、アオイにはフラッシュバックする記憶がある。日本の帰国子女大学で出会った阿形順正であり、「私のすべて」と信じたが、人工妊娠中絶を許されず、別れた。
 その10年後、阿形順正から1通の手紙が届き、アオイとマーヴは別れる。2人の10年前の約束通り、フィレンツェのドゥオモ(イタリアで街を代表する教会堂)で、アオイと順正は再会する。「嵐のような三日間だった。嵐のような、そして、光の洪水のような。」を送ったあと、アオイはマーヴと別れた事を言い出せず、2人は別れる。
 若い時代の一途な恋と挫折が、穏やかな生活に沈み込ませず、幸せになれない。僕は少し泣いた。
 引用の1文でもわかるように、文体は叙述の歩行をやめ、時に舞踏する。彼女には、出版された詩集がある。



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 かつて「吉本隆明全詩集」(思潮社)を読み通そうとしたが、今年6月13日の記事以来、読んでいない。
 それで本棚より、「関根弘詩集」(思潮社、1968年・刊)を取り出して来た。後期の作品をちら読みすると、読み通す自信はない。
 なお表紙写真は、トリミングの合うサイズがなかったので(有料ソフトを使っていない)、トリミングしていない。
概要
 詩集「絵の宿題」は1953年、建民社・刊。
 関根弘(せきね・ひろし、1920年~1994年)は、戦後、詩誌「列島」の中心となり、リアリズムとアヴァンギャルドの統一を目指した、とされる。13歳より働き続け、左傾(1時、日本共産党に入党)した。
感想
 詩集「絵の宿題」は大部に見えるので、4章より初めの「沙漠の木」14編のみを読み了える。
 「沙漠の木」では、「製鉄所のそこには/いつも僕を抜けでた僕がいる」と、本当の自分を偽って働く苦しみをうたう。
 「樹」では空襲を受ける樹や人や自分を印象的に描き、今でも「突然樹が叫びだすように思えてならない」と記憶の傷を定着する。
 戦後の荒野的風景を多く描いて、戦後を書き留めると共に、人心の荒廃をも書き留めている。



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