風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

Kindle本の第1歌集「雉子の来る庭」をKDPしました。右サイドバーのアソシエイト・バナーよりか、AmazonのKindleストアで「柴田哲夫 雉子の来る庭」で検索して、購入画面へ行けます。Kindle価格:250円か、Kindle Unlimitedで、お買い求めくださるよう、お願いします。

詩集

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 3月23日の記事「入手した3冊」に続き、昨日も3冊を入手したので、紹介したい。
 午前に歌集が1冊、クロネコ便で届いた。
 土屋美代子・歌集「山帰来」。2017年3月、柊書房・刊。
 著者を「コスモス」誌上で存じあげるのみなので、著者がこのブログをご存じか、選・題簽・帯文の高野公彦氏のご配慮か、出版社・柊書房のご配慮か。

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 3月10日に取り寄せ依頼した、荒川洋治・詩集「北山十八間戸」が届いたと、書店「KaBoSワッセ店」より24日に電話があったので、出掛けて受け取った。
 気争社、2016年10月・2刷。
 今年の第8回・鮎川信夫賞を受賞している。

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 同店には、古書コーナーがあるので、岩波文庫「ロンサール詩集」(井上究一郎・訳)を買った。
 値段130円が、半額セールとの事で、65円だった。
 読むべき本が増えたが、不安になったり、慌てたりしない。時間はある(筈だ)から。



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 青土社「吉野弘全詩集」(2015年2刷)より、第7詩集「叙景」を紹介する。
 第6詩集
「風が吹くと」の紹介は、今月11日の記事にアップした。
 「叙景」は、1979年、青土社・刊。4章22編を収める。
 自身の「あとがき」で、叙景詩について「パート1に、それらしいものを収めたが、とても叙景詩などと呼べるしろものではなく、…」と述べている。叙景詩を創作する意図の元は、詩誌「櫂」での連詩の試みと、選をする投稿詩に作者の思いで溢れ…情景や事物の質感は見当たらないことであった、と述べた。
 叙景歌は多くあり、叙景詩があってもよく、古井由吉には叙景小説とも呼べる作品「島の日」があるが、あと2つとも困難な道だろう。
 第1章の終い「木が風に」は、「蜜月の喃語に近く/意味を成さない囁きをかわし、戯れ、睦み合い/木と風は互いに飽くことがない。」と自然を暗喩にしている。
 第2章の「白い表紙」は、電車の中で育児書を読む娘さんを描いて、「母親になる準備を/彼女に急がせているのは/おなかの中の小さな命令――愛らしい威嚇/彼女は、その声に従う。/声の望みを理解するための知識をむさぼる。」と、優しいいたわりの思いを寄せている。
チューリップ1
Pixabayより、チューリップの1枚。


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 青土社「吉野弘全詩集 増補新版」(2015年2刷)より、詩集「風が吹くと」を読み了える。
 先行する
詩集「北入曽」は、今月6日の記事にアップした。
 原著は、1977年、サンリオ・刊。
 なおこの詩集は、若い人向けに35編(内、旧詩集より22編)を、詩画集として編んだものである。
 詩人が51歳になって、若者向けに詩画集を、読みやすいように、などと企画して良い事はない。詩人の意図が善意であったとしても。
 「運動会」では、「ころんで血を噴く傷口も/心の傷と無関係なのが、いい。」と書くけれども、例えば鬱病と身体不調の関連は、知られている事である。
 「ウエスト」では、「誰へ/贈られる花束ですか あなたは?//誰かが/花束の紐をほどいたら/その手の上に/身を投げ出しますね/…」と、女性の社会活躍の著しい現在から見ると、古めかしい。
 しかしこの詩集には、広く人に知られている「祝婚歌」が、初収録されている。「二人が睦まじくいるためには/愚かでいるほうがいい/立派すぎないほうがいい」と始まり、異論があるかも知れないが、一面の真実を衝いている。
 吉野弘には、この「祝婚歌」や、「夕焼け」など、突出して優れた作品がある。
椿7
Pixabayより、椿の1枚。


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 青土社「吉野弘全詩集 増補新版」(2015年2刷)より、第5詩集「北入曽」を読み了える。
 第4詩集「感傷旅行」は、先の2月25日付け記事にアップした。
 原著は、1977年、青土社・刊。6章に分け28編を収める。
 2番めの詩に「漢字喜遊曲」があり、「母は舟の一族だろうか/……幸いの中の人知れぬ辛さ/…舞という字は/無に似ている/…」と続く。僕は字面に拘る事、言葉遊びが嫌いだ。10余年詩より離れて戻って来た時、自分のレトリックを重ねた詩が嫌になっていた。「人の心に最も疎い者が詩人になる。」という箴言に出会って打たれた。詩人は、言葉の専門家ではなく、心の専門家でなければならない。文字にも声にもならない思いを、拙い言葉に出して、詩と短歌と読書感想に綴るばかりだ。
 「鏡による相聞歌」では、女性に成り代わって自身を鏡に喩え、「あなたが くぐらねばならぬ柵/それなのに/あなたは立ちすくんでいらっしゃる/砕かれることさえ/わたしは怖れていないのに」と古風な1つの思いを表わしている。
 「ほぐす」では、小包の紐をほぐす時に喩えて、「――結ぶときより、ほぐすとき/少しの辛抱が要るようだと」と、結ぼれた心をほぐす難しさを描く。
 「樹」では、「身近な者同士、許し合えぬことが多いのは/枝と枝が深く交差するからだ。/それとは知らず、いらだって身をよじり/互いに傷つき折れたりもする。」と、近親の不和の元を晒す。
 第Ⅵ章3編では、社会的関心を描いている。彼の抒情性と社会的関心が共に溶け合った作品を読みたい。
椿4
Pixabayより、椿の1枚。



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 青土社「吉野弘全詩集 増補新版」(2015年2刷)より、第4詩集「感傷旅行」を読みおえる。
 
第3詩集「10ワットの太陽」は、今月19日付けの記事に感想をアップした。
 原著は、1971年、葡萄社・刊(著者・45歳)。1972年、読売文学賞・受賞。
 詩集は、2部9章に分け、55編の詩を収める。
 「営業」では、スポンサーとの宴席で「果然/貴公子・若社長が言った。/<あと二つや三つ、倒産してもらわないと/これまでの苦労の甲斐がない>…重い眠りへ グラリと傾き乍ら/私は自嘲して呟いた/実業に処を得ざるの徒、疲れて眠る、と。」と仕事(コピライター)の非実業ぶりを嘆いた。
 「妻に」では、嵯峨信之の詩「広大な国―その他―」に反論しようとするが、「人間」を自然、人類、個人として、と分けて考えれば、嵯峨の言が当たっているように思える。
 「熟れる一日」では、「空にいらっしゃる方(かた)が/大きなスプーンで/ひと掻きずつ/夕焼けを/掬って 召しあがるのか」と、有神論へ傾く。「石仏」では同じく「ふりかえると/人はいなくて/温顔の石仏三体/ふっと/口をつぐんでしまわれた。…」と書く。
 「飛翔」では「ふりはじめのとき、雪は/落下を一瞬、飛行と思い違えた。/―むりもない、二つは似ている/しかし、すぐに同意したのだ、落下に/…」と詩人の自覚的な心象のようだ。
 詩集の末に、後記「挨拶ふうなあとがき」と略年譜を付す。
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Pixabayより、白梅の1枚。


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 kindle版「立原道造詩集」の5読めを終える。
 2016年6月24日に4読めを終えて(旧ブログ「サスケの本棚」の管理画面からの検索に拠る)以来である。
 この詩集は、2015年10月6日に、Amazonより、99円で買っている。81ページ。
 10インチ・タブレットの横長画面1面に、ほとんどのソネットが1編ずつ収まっており(2、3編の例外を除き)、とても読みやすい。
 今回は集中してではなく、寝る前に、喫茶店で、2、3編ずつ読み進めた。
 僕が今回、注目したのは、立原道造(1939年、24歳で没した)の、後期の作品である。
 例えば「また春に」の第2連、「花でなく 鳥でなく/かぎりない おまへの愛を/信じたなら それでよい/僕は おまへを 見つめるばかりだ」と書き、「ここがすべてだ!……僕らのせまい身のまはりに」と終わる。
 また「ふるさとの夜に寄す」第2連では、「いまは 嘆きも 叫びも ささやきも/暗い碧(みどり)の闇のなかに/私のためには 花となれ!/咲くやうに にほふやうに」と書いた。
 1931年の満州事変、1937年からの日中戦争に入っており、没年には第2次世界大戦が始まり、1941年の太平洋戦争へ傾く、暗い時代に、社会や自然にも背を向け、恋人と詩の世界に籠ろうとした。
 暗い時代の詩人の在り様を示した、作品群である。
ツララ2
Pixabayより、氷柱(つらら)の1枚。


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 青土社「吉野弘全詩集 増補新版」(2015年2刷)より、第2詩集「幻・方法」を読みおえる。
 
第1詩集「消息」は、先の1月31日付け記事にアップした。
 原著は、1959年、飯塚書店・刊、全38編。「消息」からの再録16編と、意に染まぬ1編は、この全詩集版では外された。
 2編めの「何を作った」では、「資本家」「労働者」「商品」と、マルクス主義公式をファンタジック化したに過ぎない。ただし労働組合活動の過労で倒れ、胸部手術を受けた、とあるから机上の空論ではない。
 「幻・方法」「幻・恩恵」は、宗教・国家の原初のイメージのようだ。「幻・方法」では「これは明らかに/幻に対する挑戦の方法をも/教えるものだ」と書きながら、その方法は明らかではない。
 「星」では、「サラリーマンの一人は/職場で/心を/無用な心を/昼の星のようにかくして/一日を耐える」と、組織の中で個人が人間性を保つ型を示している。
 有名な「夕焼け」は、名作である。僕が半世紀前の高校文芸部員時代、ガリ版に刷って読書会の資料にした思い出がある(その文化祭の読書会は、見事な失敗に終わったけれど)。優しさは弱さではなく、怒りを持ち得る事を示した。
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写真ACより、チョコレートの1枚。多くの男性の意を表して。



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