風の庫

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谷崎精二

 谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社)第2巻より、7回め、仕舞いの紹介をする。
 同(6)は、先の8月17日の記事にアップした。



ポオ全集 2
 「ポオ全集」第2巻の函の表を再掲する。

 第2巻の仕舞いは中編小説「ジュリアス・ロドマンの日記」で、244ページ~323ページ、80ページに渉る。
 副題にもあるように、「ロッキィ山脈最初の踏破記」である。第1章の長い序説のあと、第2章~第6章へと、日記形式で語られる。
 毛皮を求めて川を遡上し、草原の美しい景色、インディアンとの闘いを描き、赭熊の襲撃から逃れる所で、日記は了えられている。ロドマンが生活し、日記の残っている所から、この冒険は成功したのだろう。

 谷崎精二は解説で、「珍しい平明で清暢な物語である」と述べる。しかし少ない資料から、ポオが想像力を奮って描写して行く、苦悩が伝わって来る。

 これで第2巻を仕舞い、全6巻の第3巻に入る。


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 谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社)第2巻より、6回めの紹介をする。
 同(5)は、今月11日の記事にアップした。



 今回は、199ページ~243ページの、45ページ分である。
 「四匹で一匹の獣」は、3830年の2人連れが、古代シリアの都市アンティオクに身を置いた物語である。王がキリンの皮をまとっていたり、結末では王が2人連れの「君」になっていたり、場景と共に筋立ても混乱していると思われる。
 「シェヘラザアデの千二夜目の物語」は、千一夜物語に続きがあったという設定で、千二夜目の物語に王が怒って、王妃は殺される。しかしその話は、ポオの時代を超えて、コンピューターやネットの世界を予見したようだ。「使いきった男」のiPs細胞を予測するかのアイデアと共に、ポオは未来予見の能力があったようだ。
 「花形」は、立派な鼻を備えた男が、それを最上とする社会で花形となる。しかし侯爵と決闘で、相手の鼻を射ち落とすと、花形を追われる。鼻を持たない男が、更に1番の社会だったのである。カードゲーム等での順位が、基だろう。

パソコン
写真ACより、「パソコン」のイラスト1枚。


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 谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社)第2巻より、5回めの紹介をする。
 同(4)は、先の7月30日の記事にアップした。



 今回は167ページ~198ページの、32ページ分である。
 「ヴァルデマア氏病症の真相」、「鋸山物語」、「エルサレム物語」の3短編小説を読んだ。

 「ヴァルデマア氏病症の真相」は、瀕死の病人を催眠術によって死から阻もうとする物語である。催眠術、死にゆく者の意識、完全な死の場面など、おどろおどろしく描く。
 「鋸山物語」は、モルヒネを常用するペドロオが、インディアン・サマーのある日、山に迷って、アラブ風の市街を見つけ、降りてゆき死を体験する物語である。生き返り、家に戻るが、1週間ばかり後に亡くなってしまう。
 「エルサレム物語」は、ローマ軍攻囲下のエルサレムで、収税吏と牧師が、約束通り塔の上より銀貨の籠を下ろすが、見返りの祭壇のための肉は、ユダヤ人の食べない豚肉だった、というオチである。オチのみで成り立っている。

 第2巻のしまいまで、あと3短編と1中編が控えている。

アラブ人
写真ACより、「アラブ人」のファンタジックなイラスト1枚。



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 谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社)第2巻(1979年、新装版・7刷)より、4回めの紹介をする。
 同(3)は、今月7日の記事にアップした。



 今回は、「天邪鬼」「ペスト王」「ボンボン」の3編、121ページ~166ページの、46ページ分である。
 「天邪鬼」は、長広説の果てに、天邪鬼な動機によって殺人を告白し、明日の死刑を待つ身である事を告げる。「黒猫」以来の完全犯罪と、殺人者の自滅的行為による発覚、というテーマだろうか。話す事が信用されないので、かえって力説する、前置きが長い。
 「ペスト王」は、14世紀のペストのパンデミック頃の話である。廃墟の葬儀屋での酒盛りに、2人の船乗りが飛び込むが、逃げ出す事を得た。今の新型コロナウイルス感染の対策になる事は、書かれていない。
 「ボンボン」は、料理店主・哲学者のピエル・ボンボンが、エピクロスの果てと自称する悪魔と、魂の売買をしそうになる。ボンボンがあまり酔っているので、悪魔は取り引きを控えるが、ボンボンはランプの落下によって亡くなる。多くの歴史的偉人が、才能と金銭等を代償に、魂を悪魔に売ったと述べる。ポオのアルコール依存の弁明めいている。
シャンデリア
写真ACより、「シャンデリア」の写真1枚。


 

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 谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社)第2巻より、3回めの紹介をする。
 同(2)は、今月2日の記事にアップした。


 リンクより、関連過去記事へ遡れる。

 今回は、「奇態な天使」「使いきった男」「息の紛失」、3編を読んだ。3編で43ページである。
 「奇態な天使」はビヤ樽の胴、小樽の足でできた羽根のない、自称・天使に、酒酔いの「私」が振り回される話である。天使を含め、一切の信仰を僕は持たないので、内容には言及しない。酔っ払いの戯れ言めく(悪い冗談とも書いた)のが残念である。
 「使いきった男」は、蛮族と戦って体のほとんどが、人工品になった(本体は小さな束のみである)、名誉陸軍少将を描く。人工器官の発展、あるいはiPS細胞の発見を予告したような面は認める。
 「息の紛失」は、息を失くした男が不運の果てに、生きたまま埋葬されるが、掘り出される話である。「生きたまま葬られる」というポオの1テーマである。

 短編小説作家は、ポオも、O・ヘンリも、フィッツジェラルド(長編小説もある)も、悲惨な最期を迎えているが、何故だろう。印税の安い短編小説を乱作するからだろうか。短編小説の名手と呼ばれた三浦哲郎は、それでも長編小説も多く手掛けた。バランスを採ったのだろうか。村上春樹は短編、中編、長編、翻訳、エッセイとバランスを採って書き続け、成功している。

樽のイラスト
写真ACより、「樽」のイラスト1枚。


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 谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社)第2巻より、2回めの紹介をする。
 同(1)は、先の6月21日の記事にアップした。



 今回に読んだのは、「ウィリアム・ウィルスン」1編である。51ページ~77ページの、27ページ分とやや長い。
 ウィリアム・ウィルスンが、寄宿舎学校時代より、同姓同名の同じ日生まれの人物から、自分の芳しからぬ手段での成功を妨げられ続け、年を重ねてから決闘で相手を倒す。しかし血塗れで死にそうなのは自分で、もう一人は自分の分身だったというストーリーである。
 谷崎精二は後記で、スチーブンソンの「ジキルとハイド」に比べられるという。しかしこの短編は、別人物に成り代わる二重人格の話ではない。
 ドストエフスキーの「分身」に想を得たのではないかと思われる程(当時のポオが「分身」を読める環境だったかは判らないが)、同姓同名の人物によって主人公が困窮する設定は似ている。



 また日本の戦後作家・梅崎春生もその全集・第2巻の函の帯で、種村季弘に「この作家はたえず分身幻想につきまとわれていた。」と書かれる程、主人公に似る服装・境遇などの人物との、ストーリーを繰り返し描いた。今の僕に記憶はあるが、例に引けるのは「服」のみである。


 ポオの場合、大酒と賭博で学校を追われ、後も酒に苦しんだ生活を、告白ならぬ幻想的小説へ高め得た。
男性二人 2等身男性
写真ACより、イラスト1枚。




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 谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社・版)の第1巻を読み了えたので、第2巻に入り、短編小説3編を読んだ。
 先行する「同 1」を読む(5)は、今月13日の記事にアップした。



ポオ全集 2
 「同 2」は、1969年11月・初刷、1979年12月・7刷。

 訳者が後記で「幻想的、怪奇的な物語を集めた」という第2巻より、初めの3編である。
 「赤き死の仮面」、「メッツェンゲルシュタイン」、「アッシャア家の没落」、共に心理的恐怖小説と呼びたい。
 「アッシャア家の没落」は、「アッシャー家の崩壊」の名が有名だろう。僕の以前に読んだのが、抄訳だったのか、少年版だったのか、心理的いきさつはこの版が描写細やかだった。

 「赤き」「おののかしめ」「ごとくであった」等、古めかしい訳語が多い。訳者が初めてポオを翻訳したのは、1913年(大正2年)と古く、後に手を入れても、致し方なかったのかも知れない。
 現在は新しい翻訳が文庫本で出版されている。



 


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