声、あるいは音のような
 岸原さや・歌集「声、あるいは音のような」kindle unlimited版を、タブレットで読み了える。
 入手は、先の2月22日の記事、
「歌集2冊をダウンロード」の、初めにアップした。
 歌集の諸版の刊行年次、価格などは、その記事を参照してください。また以前の同・「100首選」の感想へも遡り得る。
概要
 岸原さや(きしはら・さや)は、静岡県・生まれ、東京都・在住。2007年、結社「未来」に参加、加藤治郎に師事。
 ブログ
「さやかな岸辺」を運営する。ツイッターでも盛んに発信している。
 この歌集には、284首、加藤治郎の解説「薄闇に」、著者・あとがきを収める。
感想
 彼女は母の自死、失恋など、辛い経験を重ねたようだ。神経症的にまでなりながら、短歌の力、キリスト教の信仰などに支えられ、生きているようだ。
 加藤治郎の解説に、「そこは、眠りと死が混じり合っている」、「苦しみを言い放つところから始めれば良い。」と述べている。僕は同人歌誌に参加して救いを感じ始め、結社歌誌に加わって救いを確信した。苦しみを発表することは、ほとんど無かったが。短歌には、神も魔人も居る。
 僕は科白でも呟きでもなく、傍白(演劇で、共演者には聞こえない設定で、観客に聞かせる科白)の、詩歌でありたいと願っていた。悪い時代の今は、未来に残す呟きだ。
 引用の5首目の「のろのろと」は、怠けているのでも、能力がないのでも無く、安全第一で全力で作業し続けていると、現場出身の僕にはわかる。7首目は、対句に惹かれたのだが、今となってみると、オブラートもビブラートもない歌を詠むから、という宣言に聞こえる。
引用

 以下に7首を引く。
かなしみがかなしくなくてくるしみもくるしくなくて熱だけのある
なぜだろういつか忘れていくことを小さな脳に刻もうとする
もう好きにさせてもらおう、くだらない。そんな言葉を叫び出しそう
死ぬことと生きてることの境いめが目にしみる夜は横向きに寝る
幾何的な巨大キリンのクレーン車が建材を吊るのろのろと今日も
花の名を呼び出すように寝台でひらくカラーの鉱物図鑑
オブラートに包みましょうか。ビブラートを響かせますか。いいえどちらも