
7月17日(第3月曜日、「海の日」祭日)の、午後2時より4時までの予定で、福井県立図書館・多目的ホールにて、現代詩作家・荒川洋治氏の講演が行われた。演題は「第8回鮎川信夫賞受賞記念講演 書く事は読むこと ―詩作50年の風景」。
荒川洋治氏の関連として、6月19日の記事、「現代詩作家・荒川洋治氏・講演」に次ぐ。
ここで写真について言っておく。ホール内は、撮影禁止だった。事前にもらっていたパンフの写真を挙げてみたが、不鮮明なので、プリンタ複合機を使って初めてのスキャンをしてみた。それも怪我の功名的にうまく行ったものを用いた。
講演のホールは満員(予約制)で、約100名の聴衆だった。映写カメラを回しており、別室で視聴できるようだった。
講演前に、福井県知事の西川氏より荒川氏に、受賞を祝う記念品が贈られた。皆の拍手の中で。西川氏は、講演の仕舞いまで、最前列の席で聴いていた。
講演の初めに、副題の「詩作50年の風景」は宜しくなかった、詩人同士の対談などでは自分の詩作史を語りもするが、一般聴衆の前では語っていない、と述べた。自分の作品を、良くも悪くも言えないから、と。
そこで荒川氏の読書の中で、名作と推す作品を、A3紙両面に挙げて配布し、語っていく形になった。
大野晋「日本語の源流を求めて」(2007年、岩波新書)では、日本語の起源を、スリランカなどのタミル語にある、とする。「あはれ」「さび」などに当たる語が、発音も似て、同じ意味であるとする。数百語の対照表もあるらしい。
丸山真男は復員してすぐ市民に向け、「なぜ戦争が起こったか」を語り始め、「超国家主義の論理と心理」(1946年・岩波文庫)を発行した。
網野善彦「日本の歴史をよみなおす」(1991年・ちくま学芸文庫)では、この歴史書が総50万部売れ、日本の中世・近世の見方を変えた。
小説では、NHK文芸劇場で、横光利一「紋章」、梅崎春生「幻化」を観た事が大きい、と述べた。
また尾崎紅葉は、「金色夜叉」で挫折したした人は、口語体、である・調で書かれた「多情多恨」(1896(ママ)年・岩波文庫)を読むよう薦めた。
歌句では、「名歌名句事典」に人名別作品欄がない。季節、人事、などに分けられ、初句索引はあっても。また収める作品は、編集者の好みが偏り、よく知られた名作が載っていない、と批判した。
詩では石原吉郎「位置」をあげながら、彼の言葉が壊れている、論理が外れている、脈絡がない。しかしシベリア抑留から復員した石原吉郎は、自分の体の中から生まれる言葉で書き、自分の真実を打ち出して書いた。わからないものだらけの世界(私たちにとっても)を大事にするために、と述べた。
ここで自作の詩「美代子、石を投げなさい」を朗読した。
最後に、海外文学に就いて。スタインベック「ハツカネズミと人間」(1937年・新潮文庫)では、人の情を、生き死にに到るまで描いた、とストーリーを語って感銘を与えた。
アーサー・ミラー「テレビン油蒸留所」(2004年・早川書房「存在感のある人」)では、初期の戯曲以来ヒットの無かったアーサー・ミラーが、晩年に落ち着いて、戯曲の方法も取り入れて描いた、名短編だと推した。
定刻を過ぎ、4時20分頃に講演を収めた。
論旨に洩れている所も多いと思われるが、ご容赦を願う。


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