風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

Kindle本の第1歌集「雉子の来る庭」をKDPしました。右サイドバーのアソシエイト・バナーよりか、AmazonのKindleストアで「柴田哲夫 雉子の来る庭」で検索して、購入画面へ行けます。Kindle価格:250円か、Kindle Unlimitedで、お買い求めくださるよう、お願いします。

2017年06月

 角川書店「生方たつゑ全歌集」(1987年・再版)より、歌集「風化暦」を読み了える。
 先行する歌集
「紋章の詩」は、先の5月30日の記事にアップした。
 歌集「風化暦」は、1974年、新星書房・刊。
 歌集を読んでいて、心境的には、夫の病気と老いの自覚、嫁した旧家の国への引き渡し等、有り得るもので、一人娘の婿・生方慶三の癌に由る死の他、突出した所はない。
 しかし歌境の進化から見ると、自然詠や写生を遠く離れて、産業社会の苛酷さを、新しいレトリックを以って切り開いて詠んで来たと言える。
 歌集の末尾の章に、婿・生方慶三の死を詠んだ「嘘」があるが、本格的な挽歌は次の歌集「灯よ海に」の連作「鎮魂譜」を待たねばならない。
 以下に「風化暦」より、7首を引く。
ひりひりと火傷ひきつる思ひあり家明け渡す嘆きは言ふな
予祝するシラブルはなし仮住みの庭にくるみの実ごもる日にも
家渡すことかなしむなと言ひ切りて荒涼となることも切なし
さゐさゐと灯油注がれゐるかたへ紊(みだ)れつつくる冬の霰は
曖昧なる眼もてざる犬とゐるこのてのひらを舐めさせながら
爪がたの美しかりし姉うへも今は骨壺のなかにしづまる
空きてゐるベッドの上に帷子(かたびら)を裁つとき雪のふる悲鳴あり
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写真ACより、「お花屋さん」のイラスト1枚。



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 吟遊社「春山行夫詩集」(1990年・刊)より、第4詩集「花花」を読み了える。
 先行する詩集
「シルク&ミルク」は、先の5月27日の記事にアップした。
 詩集「花花」は、1935年、版画荘・刊。9章85編より、第1詩集「月の出る町」と重複する27編を除く58編を、この全詩集に収める。
 初期の詩と、「植物の断面」「シルク&ミルク」のモダニズムの成果から後退した、後の詩を混ぜて刊行したのなら、狡猾である。
 「途上」の「かさこそと水が鳴る 明日を待つ心に/(越方(こしかた)の希望(のぞみ)はかなしい!)//と、いろもましろな月 いざよへる水の上に澄む/(すつかり思ひも行ひも無駄であつた)/…」と、挫折と過去への哀惜を詠うようだ。
 「新月」では、「いま 積まれた清く暗い書物のかげに耳をすませ//そは暗き扉なり 眼をとく(’’)瞑ぢよ/あまたせはしき跫音は此方(こなた)に来るとも/煩累(わづらひ)のなかに眼をひらくことをやめよ」と、暗い時代を遣り過ごそうとしている。
 「新生の曙」では、「やるせなき哀愁を破る小さなる角が欲し/はるとともに新生の日はきたりてわがこころ萠えそめ/はるかなる曙の精気にうたれて東に対(た)つことをしたふ」の明るさは、心理的転向の証しだろうか。
 終編の「快楽」の末尾では、「ああ 私は兜虫のように/嗜眠のなかに青い薔薇のノスタルジアを夢みるのだ」と、甘い夢を詠っている。
 注:引用の中に、正字を新字に替えた所があります。
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写真ACより、フラワーアレンジメントの1枚。


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 福井県俳句作家協会の年刊句集「福井県 第55集」(2017年3月・刊)より、8回目の紹介をする。
 
同・(7)は、今月1日の記事にアップした。
 今回は、174ページ~200ページ、27ページの54名の540句を読んだ。
 南越地区(越前市、南越前町)のすべてである。
 鯖丹地区、奥越地区、坂井地区を越え、福井地区に次いでいる。
 旧くからの文化の息づく街だろうか。
 宗教がらみの句だと、無信仰の僕は、ほぼ拒否してしまう、癖のある読者である。孫褒めの句も好まない。
 以下に3句を引く。
 Z・梧桐さんの「枯れしものの音」10句より。
腕振りて先行く妻や草青む
 H・光生さんの「書初」10句より。
東雲の輝いてより初日の出
 T・葉子さんの「マイナンバー」10句より。
シニアとて一役買つて里祭

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写真ACより、フラワーアレンジメントの1枚。



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風のアンダースタディ

 Amazonのkindle本より、鈴木美紀子・歌集「風のアンダースタディ」を読み了える。購入は、今月2日の記事にアップした。
 書肆侃侃房の「新鋭短歌シリーズ」よりkindle版で読んだ歌集として、先の5月10日に記事アップした、蒼井杏
「瀬戸際レモン」に継ぐ。
 印象は、ずいぶんネガティブだな、という事である。結婚願望があって(相手にネクタイを贈ったりしている)、結婚しながら、DVを受けたようだし、相手の無呼吸症候群を知らせないのは憎悪を感じる。
 何も幸せな生活や、リアル充実を描くばかりでなく、短歌にこだわるのは訳ありの事情だろうから、ネガティブな歌があって良い。ただし「短歌は自己救済の文学である」という言い伝えを信じ、実感している僕としては、もっとポジティブな歌があり得る筈だ、と信じる。その後の彼女の短歌を知らないけれども。
 師の加藤治郎が、解説「代役の私」で引いた17首と、僕が読みながらメモした8首が、意図せずに全く重ならないのは、短歌観の違いだろうか。
 以下に6首を引く。
この辺は海だったんだというように思い出してねわたしのことを
お皿にはグリンピースが残されて許せないこと思いださせる
マフラーやネクタイ贈れば気のせいか怯えた目をするあなたと思う
本心が読み取れなくて何回もバーコードリーダー擦りつけてた
これ以上きみには嘘をつけないと雨は霙に姿を変えた
さっきまでわたしはあなただったのにシャンプーの泡ですべて流した




 
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 6月2日(金曜日)に、5月30日・予定だった短歌研究会B第15回を、僕の都合で日程をずらして持った。
 
同・第14回は、先の4月29日の記事にアップしてある。
 喫茶店の1隅に、メンバー3人が、朝9時半に集まった。
  僕がTさんに借りていた歌集を返し、ツイッターの話などのあと、研究会に入る。
 同・Bは、岩波文庫「宮柊二歌集」(宮英子・高野公彦・編)の、読み込みである。
 歌集「小紺珠」より、「小現実」の章の「赤い燠」の節(76ページ)より入る。
 1首目「「もっと苦しめ」といふ声ぞする」の苦しみの源は、従軍体験と作歌の困難を、重ねているのだろう。
 「袖無し着たり」の幼子は、当時として豊かだったか貧しかったか、今の僕たちにはわからない。
 「黄と仄青(うすあを)のけむり行く」の「仄」は淡ではなく薄でもない、拘りがあったのだろう。焚き火の煙を詠むのは、他の歌にある「小現実を歌にせむかな」の実践である。
 「いくばくかわれの心の傾斜して日当る坂を登りつつあり」の「傾斜」を、僕は崩れ、後退かと取ったが、内向きになっている、「坂」との縁だろう、という意見だった。また、宮柊二は結句が上手い、という感想が出て、改めて意識した事だった。
 「わが国人(くにびと)の」の句があって、日本人を指すのだろうが、郷里の人を指すか、よくわからなかった。
 「たたかひの中に育ちし子のまへに多く黙しておくれゆく父」の、「子」は自分、「父」は実父を指すのだろう。
 歌集「晩夏」(1951年・刊)に入り、3首進んだ(81ページ)所で、僕が腰痛でギブアップした。喫茶店のベンチ椅子が固い。
 予定は11時までの所、10時半に、次の予定を決めて散会した。
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写真ACより、フラワーアレンジメントの1枚。


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 所属する短歌結社を、「コスモス短歌会」より、「覇王樹社」へ移った。「コスモス」では、24年余在籍して来て、自分の短歌の未来がない、と感じられたからである。
 「覇王樹」は、創刊者・橋田東声の生き方に共感しており、ネットのホームページ(リンク集にあり)より問い合わせて、準同人で入会した。
 歌誌は薄く2017年6月号で42ページで、「コスモス」(出詠していないが、会費を6月号分まで払ってある)の6月号の206ページに及ばない。
 「覇王樹」は2020年に100周年を迎えようとしている。毎号の歌は、同人は無選6首、会員・準同人は8首出詠・6首の掲載である。10首詠欄、15首詠欄があり、題詠・付け句の募集など、意欲の継続に意を払っている。
 僕の歌が初掲載の6月号が、5月26日に届いた。すでにほぼ読み了えている。
 僕が付箋を貼ったのは、次の1首。T・サツ子さんの「厳寒の」6首より。
好きなだけ飲んで下さいふらついた足元は何、酒か齢か
 僕の6首は、もう1つのブログ「新サスケと短歌と詩」の、
6月1日の記事より、2日続けてアップしたので、横書きながらご覧ください。


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風のアンダースタディ
 鈴木美紀子・歌集「風のアンダースタディ」kindle版を購入し、タブレットにダウンロードした。
 実際に購入したのは、メモに拠ると、先の5月26日である。
 価格は800円。紙本(1,836円)より、かなり安い。
 歌集の元本は、2017年3月12日、書肆侃侃房・刊。141ページ。
 同・書房の「新鋭短歌シリーズ」第3期の1冊。
 「アンダースタディ」は、名詞で「代役」、動詞で「代役のけいこをする」「代役をする」の意味である。
 鈴木美紀子は、略歴に拠ると、東京・在住、2009年秋「未来短歌会」入会、2010年より「ダ・ヴィンチ」に投稿、2015年に同人誌「まろにゑ」に参加。
 同シリーズの蒼井杏「瀬戸際レモン」と同じく、「未来短歌会」の加藤治郎に師事。
 近い内に、感想をここにアップできるだろう。


 

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