角川書店「生方たつゑ全歌集」(1987年・再版)より、歌集「風化暦」を読み了える。
先行する歌集「紋章の詩」は、先の5月30日の記事にアップした。
歌集「風化暦」は、1974年、新星書房・刊。
歌集を読んでいて、心境的には、夫の病気と老いの自覚、嫁した旧家の国への引き渡し等、有り得るもので、一人娘の婿・生方慶三の癌に由る死の他、突出した所はない。
しかし歌境の進化から見ると、自然詠や写生を遠く離れて、産業社会の苛酷さを、新しいレトリックを以って切り開いて詠んで来たと言える。
歌集の末尾の章に、婿・生方慶三の死を詠んだ「嘘」があるが、本格的な挽歌は次の歌集「灯よ海に」の連作「鎮魂譜」を待たねばならない。
以下に「風化暦」より、7首を引く。
ひりひりと火傷ひきつる思ひあり家明け渡す嘆きは言ふな
予祝するシラブルはなし仮住みの庭にくるみの実ごもる日にも
家渡すことかなしむなと言ひ切りて荒涼となることも切なし
さゐさゐと灯油注がれゐるかたへ紊(みだ)れつつくる冬の霰は
曖昧なる眼もてざる犬とゐるこのてのひらを舐めさせながら
爪がたの美しかりし姉うへも今は骨壺のなかにしづまる
空きてゐるベッドの上に帷子(かたびら)を裁つとき雪のふる悲鳴あり

写真ACより、「お花屋さん」のイラスト1枚。


先行する歌集「紋章の詩」は、先の5月30日の記事にアップした。
歌集「風化暦」は、1974年、新星書房・刊。
歌集を読んでいて、心境的には、夫の病気と老いの自覚、嫁した旧家の国への引き渡し等、有り得るもので、一人娘の婿・生方慶三の癌に由る死の他、突出した所はない。
しかし歌境の進化から見ると、自然詠や写生を遠く離れて、産業社会の苛酷さを、新しいレトリックを以って切り開いて詠んで来たと言える。
歌集の末尾の章に、婿・生方慶三の死を詠んだ「嘘」があるが、本格的な挽歌は次の歌集「灯よ海に」の連作「鎮魂譜」を待たねばならない。
以下に「風化暦」より、7首を引く。
ひりひりと火傷ひきつる思ひあり家明け渡す嘆きは言ふな
予祝するシラブルはなし仮住みの庭にくるみの実ごもる日にも
家渡すことかなしむなと言ひ切りて荒涼となることも切なし
さゐさゐと灯油注がれゐるかたへ紊(みだ)れつつくる冬の霰は
曖昧なる眼もてざる犬とゐるこのてのひらを舐めさせながら
爪がたの美しかりし姉うへも今は骨壺のなかにしづまる
空きてゐるベッドの上に帷子(かたびら)を裁つとき雪のふる悲鳴あり

写真ACより、「お花屋さん」のイラスト1枚。

