今月20日の記事「贈られた歌集と詩誌2冊」で報せた内、大森孝一さんの第3歌集「老いの小夜曲(さよきょく)」を読み了える。
概要
2017年12月、短歌研究社・刊。515首、著者小影、橋本俊明さん(「覇王樹」同人、お二方とも「覇王樹」の大先輩であるが、ここでは「さん」付けで書いてゆく)跋、著者あとがきを収める。
大森孝一(おおもり・こういち)さんは、1922年(大正11年)生、三重県に在住。2008年、「覇王樹」入会、歌集「渓流」、「峡の夕映え」がある。「小夜曲」は、セレナーデの邦訳の1つである。
感想
大病後の通所保健施設に於ける一人の女性理学療法士との出会いが、作歌復活、歌集出版の契機になったとの事である。やすらぎを与える対応に、95歳になる大森さんは、異性、母性、理解者を感じ、「極めて不思議な現実とさえ思われたのである」(「あとがき」より)。
子供さん、お孫さん、一人暮らしの厨房を含む私生活、従軍を含む多くの回想、旅、政治(日本、中国、他)等と、詠む関心は広く、衰えを知らない。
橋本さんは跋文で(跋文と、あとがきを読めば、僕の読後感は要らないくらいだ)、「いい意味の老いたるセンチメンタリスト」とも書く。「夕月と宵星(ほし)の逢瀬を妬むごと西より迫る夜半のむら雲」等、僕には、かつての「明星」につながるロマンチストに思える歌もある。
名詞止めの歌が多いのは、そのロマンチシズムと、漢詩を長く嗜んできた故もあるだろう。
結社歌誌「覇王樹」2018年2月号に、「東聲集」へお元気で出詠がある。
引用
付箋は多く貼ったのだけれど、例に依って7首を引く。
夕時雨そそくさと去り立つ虹の跨ぎて遥か君住む辺り
久方の猪口一パイの苦さかな担当外れし夜の独り酒
再びの歌ごころ湧く菊月の小夜更けゆけば出づるオリオン
軍縮も東北飢饉も倒産も子等が聞いてる夏の縁台(世界経済大恐慌始まる)
大腿は部品の予備庫抜き取りて胸の血管継ぎ替ふといふ
草に寝て無念夢想を装へどそれさへ拒む百舌の高鳴き
竹島も斯くやありなむガス田の実績着々東シナ海