短歌新聞社「岡部文夫全歌集」(2008年・刊)より、歌集「雪天」(前)を紹介する。
 今月9日の記事、
同・「能登」に次ぐ。
概要
 原著は、1986年、短歌新聞社・刊。1070首、妻・岡部ミツのあとがきをおさめる。
 大冊なので(この全歌集で634ページ~700ページ、1ページ20行)、前後に分けて紹介し、今回は668ページの「鷺」の章までをアップする。
 1986年5月、岡部文夫は失語症に陥り入院、7月退院(自宅療養)、10月・歌集刊行した。78歳。
 翌年の「迢空賞」(歌壇最高の賞と思われる)を受賞。生前最後の歌集となった。
感想
 夫人のあとがきに拠ると、常と違って、推敲を重ねずに歌集刊行を依頼し、かえってそれが良かったのか、自ずと歌が満ちたのか、力感のある歌が多くを占める。
 前者の場合だとすると、推敲に推敲を重ねる歌人だったらしいが、修辞に自信があって、まとまり過ぎていたのかも知れない。
 「この幾日灼けつつ熱き炎天の沙のうへには蟻さへも見ず」のような、自然と自己の融合した秀歌が見られる。
 積雪の怖れ、通行人の少ない冬、老いの姿は、僕も実感を同じくする。また自然を美しく詠む。
引用

 以下に7首を引く。
夜昼となしに降りつむ屋根の雪ただに怖るる老いたる今を
冬の日の暮るるより通る人もなきこの雪ぐにの夜のひそけさ
降りやまぬ雪のゆふべの早きより鮟鱇を煮る妻とふたりに
北ぐにの春も近きか雪代の水を刷(は)きつつ風はかがよふ
一冬をすぎしばかりにかくまでに吾が老の足衰ふものか
半夏生に焼鯖を食ひて豊作を祈る慣ひも今に貧しき
海の上に降りつつ荒き夜の雨のときのまにして遠く移ろふ
0-20
写真ACより、「アールデコ・パターン」の1枚。