石川書房「葛原繁全歌集」(1994年・刊)より、第5歌集「又々玄」の前半を読み了える。
 今月1日の記事、
同「又玄」を読む(後)に次ぐ。
概要
 1975年~1980年の作品を収めた、本歌集も635首と多いので、前後2回に分けて紹介する。
 1980年に同時に発行された3部作歌集、「玄」「又玄」「又々玄」によって、第32回読売文学賞を受賞した。
 今回は、初め309ページより、「晩夏光」の章346ページまでを読む。
感想

 付箋紙にメモを書きながら貼って行ったので、その内7首の寸感を述べる。
寒風に吹かれ研(と)がれし土踏みて行き行けば響くわが靴の音
 「靴の音」に、サラリーマン生活を象徴するようだ。
曳く人と黒き犬とを小さく置き埋立砂漠春ならむとす
 埋立地の荒漠に、未来を視ているようだ。
伸べし葉もかかぐる花もいと小さくかがまりて見るたちつぼ菫
 小さいものを慈しむ心がある。
日没の直後の空に伸び立ちて灯をばともせり五十階ビル
 当時の高層ビルに、経済発展を視ている。
拙かる我に従ひ生きて来し妻を率(ゐ)て見る夕山時雨
 夫の詫びと感謝を妻に述べて、素直な表白である。
幼葉の確かに張れる喜びを妻言ひわれ見る苗にかがみて(ハナカヘデの苗木)
 小さい喜びである。村上春樹の言う「小確幸」か。
あげつらひ成ることやある過ぎし日もこれからのちもわが無縁の徒
 書評の徒に、厳しい言葉である。
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写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。