昨日の記事、矢野一代・歌集「まずしき一冬」を読む、に継ぎ、「覇王樹」編集部より依頼の3冊めの紹介を転載する。


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 森川龍志歌集「幻の森まで」。
 詩集「バルカロオレ」、「幻を埋む」を持つ著者の、第1歌集。彩雲叢書第8編。栞には、文学博士・比較神話学研究の篠田知和基氏、歌人・美術家で歌誌「彩雲」代表の田中伸治氏、版画家・画家の越智志野氏、3氏が賛辞を寄せている。
 箱入り、1ページに2首、あるいは1首と詞書きのような行で構成され、贅沢な造りである。
 思いを強く打ち出して、描写ではなく、詩人らしい詠みぶりである。旋律と和声を伴った、妙音が読者に奏でられる事を願われている。

早春の暮れゆく先の杣道は少年の日の森へと続く
春惜しむ風の強きに部屋にゐてかすかに揺らぎつつ字引ひく
魔が時の頭上に蝉の時雨るるも井戸の底には滴りもせず
呂の音で始まる歌が氷雪の大地のどこかで燃え出づる頃
光ひとつあら野の中にまたたきて花苑の主の招待を受く
 (書肆 露滴房 2019年11月28日・刊)