風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

Kindle本の第1歌集「雉子の来る庭」をKDPしました。右サイドバーのアソシエイト・バナーよりか、AmazonのKindleストアで「柴田哲夫 雉子の来る庭」で検索して、購入画面へ行けます。Kindle価格:250円か、Kindle Unlimitedで、お買い求めくださるよう、お願いします。

レトリック

 近澤有孝・句集「踝(くるぶし)」を読み了える。
 僕の親しむ彼のブログに、刊行が公開され、Amazonより880円(税込み)で取り寄せた。

句集「踝」
 2020年3月31日・刊。制作印刷・喜怒哀楽書房。ここ3年の273句、著者・あとがきを収める第1句集。帯文は辻村麻之(「篠」主宰)。94ページ。

 近澤有孝(ちかざわ・ゆうこう、1960年・生)は、俳句の他に、語学に堪能で、ランボーの詩や「マザー・グース」の新訳を、ブログにアップしている。
 俳歴は長いのだろう。俳誌「篠」同人。

 収録された句のレベルの高さを認めた上で、忠告したい事がある。旧かな古典文法で句作したりすると、習熟に連れて、レトリック、用語、言葉の運び方などに、俳壇らしい臭みが出る場合がある。生活にアンテナを張って、いつまでも新鮮な句を吟じてほしい。
 季語とともに、自然との機微を掴んだようだ。「踏青やいずれ故郷を忘れたる」は、反語だろうか。


 以下に5句を引く。
文を書く東風の吹くころ封をする
西行忌落雁ひとつ齧りたる
艦船を眼下に花は杏かな
去りゆける守宮つもりがあるらしく
茶の花や触れてはならぬと云はれたる






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 先の9月18日の記事、入手した4冊(4)で紹介した内、小坂井大輔・歌集「平和園に帰ろうよ」Kindle Unlimited版を読み了える。
 書肆侃侃房の新鋭短歌シリーズとして、9月15日の記事、寺井奈緒美・歌集「アーのようなカー」同を読むに次ぐ。

4・小坂井大輔 平和園に帰ろうよ
 「平和園」とは、名古屋駅西口にある、中華料理屋であり、小坂井大輔の実家で職場である。ここに多くの歌人が訪れ、歌人の聖地と呼ばれる。記名帳には、多くの歌人の名前が記され、憧れの地となっているという。
 笹公人のツイート写真では、小坂井大輔は体格の良い、スポーツマン風である。歌集には、試合・部室の語の入る歌もあった。フィクションも混じるだろうが、ヘタレの歌を詠み、生き辛そうである。
 歌集を進むに連れて、レトリックが上手になって、空転しているような歌はつまらない。
 短歌と人気と収入で、歌集出版に至ったことはめでたい。


 以下に7首を引く。
値札見るまでは運命かもとさえ思ったセーターさっと手放す
株券が紙きれになる阿阿阿阿と居間で小さな父がのた打つ
無くなった。家も、出かけたまま母も、祭りで買ったお面なんかも
雨の音をアプリで買って聴いている晴れの日こんな午後に死にたい
母親が手押し車を欲しがる日なぜか生あくびが止まらない
苦しいと狂おしいってよく似てるあめあめふれふれもっともっとだ
おれもテフロン加工してくれ困難で焦げつく身体だから頼むよ


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 これまで記事にアップしなかったけれど、寺井奈緒美・歌集「アーのようなカー」Kindle Unlimited版をタブレットにダウンロードしており、先日に読み了えた。
寺井奈緒美「アーのようなカー」
 書肆侃侃房・新鋭短歌シリーズ46。同シリーズとして、先の8月3日の記事、二三川練・歌集「惑星ジンタ」に次ぐ。

 単行本:2019年4月11日・刊。価格:1,836円。
 Kindle版:2019年8月2日・刊。価格:1,600円。
 掲載首数、不明。東直子・解説「「そこにいた時間」の新しい豊かさ」、著者・あとがきを付す。

 優しさを施したい、求めたい心情がある。言葉の斡旋がうまく、レトリックが上手になって、人生の真実味が深まらないようだ。
 あとがきに「色を失っていたのは街ではなく自分自身だったのだと、ようやく気がついた。」とある。人生の暗部も見つめつつ、歌に拠って、危うい時代を生きて行ってほしい。

 以下に7首を引く。

舌打ちの音でマッチの火が灯るようなやさしい手品がしたい
フジツボのように背中を張り付かせ駅の柱はやさしい岩場
コピーアンドペーストのため囲われた文字に地下への隠し通路を
追い炊きのボタンを君に埋め込んで一年経つが未だ押せずに
戦前を生きるぼくらは目の前にボタンがあれば押してしまうね
街をいく人たちみんな大根を持っているけど何かの予兆
再生をされてトイレットペーパーになったら隣り合わせましょうね


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五十子尚夏 The Moon Also Rises
 五十子尚夏・歌集「The Moon Also Rises」kindle unlimited版を、タブレットで読み了える。
 同じ新鋭短歌シリーズの歌集として、今月6日の記事にアップした、虫武一俊・歌集「羽虫群」kindle unlimited版を読むに次ぐ。
概要
 書肆侃侃房の新鋭短歌シリーズの1冊。
 単行本:2018年12月10日・刊。価格:1,836円。
 kindle版:2018年12月27日・刊。価格:800円。
 kindle unlimited版は、追加金:無料。
 五十子尚夏(いかご・なおか)は、男性、1989年・生まれ、2015年・歌を始めた。
 この歌集には、324首、掌編小説1編、加藤治郎・解説「世界は踊る」、著者・あとがきを収める
感想
 「滅びゆくものへの美意識」(あとがき・から)より詠んで、華美なレトリックから、フィクションへ至る。
 美術、音楽に関わる歌が多い。外国旅行の地名も多い。
 人名、地名の固有名詞がたくさん出て来て、僕にはほとんど判らないが、ネット検索で一々調べる気になれない。電子書籍の機能の多くを欠いているので、その場での辞書・Wikipediaでの検索ができない。
 それでも僕がしまいまで読んだのは、青年の孤立した美意識と、その危うさに惹かれたのだろう。
引用
 以下に7首を引く。
一抹の不安重ねてゆくだけのmake loveへと誘うフロイト
信じられるものひとつとひきかえに防犯カメラに映す口づけ
夏青く照りてあなたが打つサーブ・アンド・ボレーの美しき日よ
九回の裏に斜線を引くような舌っ足らずの初恋でした
タクシーの後部座席で泣いていたあなたの嘘を見破れないで
クレーターのようなえくぼの深淵に不時着地点を見定めている
女流棋士が十二手先に人知れず美(は)しき正座を崩す火曜日



 
 
 
 
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虫武一俊・羽虫群
 虫武一俊・歌集「羽虫群」kindle unlimited版を読み了える。
 Amazonよりタブレットへのダウンロードは、先の5月13日の記事、入手した6冊(2)にアップした。
 同じ新鋭短歌シリーズの読書は、先の5月10日の記事、小野田光・歌集「蝶は地下鉄をぬけて」に次ぐ。
概要
 書肆侃侃房の「新鋭短歌シリーズ」の1冊。
 単行本:2016年6月12日・刊。価格:1,836円。
 kindle版:発行日・不明。価格:800円。
 kindle unlimited版は、追加金・無料。
 虫武一俊は、1981年・生。龍谷大学・卒業。
 歌集「羽虫群」には、308首、石川美南・解説「だんだん楽しくなるいきどまり」、著者・あとがきを収める。
感想

 レトリック(修辞)が上手すぎて、衝撃的な事を詠んでも、真実のインパクトが弱い。
 会話体の多用がある。呼び掛けたい思いが強いのだろう。
 「三十歳職歴なしと告げたとき面接官のはるかな吐息」と詠みながら、短歌の力の故だろう、短歌の会で批評し、職にも就け、恋も得たようだ。
 啄木に繋がる、生活的弱者の系譜の歌人だっただろうか。短歌の救いを宣してまわっている僕には、好ましい例である。
引用

 以下に7首を引く。
少しずつ月を喰らって逃げている獣のように生きるしかない
死にたいと思う理由がまたひとつ増えて四月のこの花ざかり
「負けたくはないやろ」と言うひとばかりいて負けたさをうまく言えない
謝ればどうしたのって顔ばかりされておれしか憶えていない
秋というあられもなさにわたくしを見下ろす女ともだちふたり
駅前の冬が貧しい できなさとしたくなさとを一緒にされて
逃げてきただけだったのににこにことされて旅って答えてしまう




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 福井県俳句作家協会「年刊句集 福井県 第57集」(2019年3月20日・刊)より、7回めの紹介をする。
 今月14日の記事、同・(6)に次ぐ。
概要
 総304ページの大冊であり、作品集も試算によると、408名、4,080句に及ぶので、紹介を数回に分けざるを得ない。
 また副題に、「平成30年版」と銘打っていて、2018年1年間の吟である事を、実直に示している。
感想
 今回は南越地区(越前市、南越前町)の、159ページ~190ページ、32ページの630句を読んだ事になる。
 大衆詩としての俳句に、高度な修辞(レトリック)は、必ずしも必要ではない。例えば「夕星の零るるように梅咲けり」などは、比喩が嫌味である。
 短い詩型なので、新しい題材は必須である。ただし世間で話題になってより、俳歌に定着するまで、数年を要するようだ。
引用

 以下に5句を引く。
女子会の席の華やぎ晩夏光(Y・富鼓)
初詣歩幅の小さき母連れて(Y・七重)
紫陽花や知らぬふりした母の恋(H・みえ)
告げられず見つめるだけで卒業す(I・千鶴子)
ルビ付きの名前のあまた蓮の花(Y・浩江)
0-40
写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。



 
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 短歌新聞社「岡部文夫全歌集」(2008年・刊)より、11番目の歌集「雪炎」を読み了える。
 先の5月23日の記事、
同・「灰白の群」を読む、に次ぐ。
概要
 歌集「雪炎(せつえん)」の原著は、1949年9月、立山図書出版社・刊。
 274首、著者・巻末小記、を収める。棟方志功・装丁。
 先の「灰白の群」の3ヶ月後の刊行である。巻末小記に拠ると、立山図書出版社の塚本定勝(社主?)の、強い勧めにより、辞退を翻したとある。
 「雪炎」を読み了えて全歌集の360ページ目、歌集編の791ページの半分にも至っていない。先の長い道である。
感想
 巻末小記に、「運河」(「灰白の群」と同時期)前後から自選して274首を集めた、とある。刊行時期からみて、その2歌集の拾遺であるかも知れない。
 「しんしんと雉の瞼に触(さや)りつつ炎ともあらむその雪片(せつぺん)を」の歌のように、副詞、比喩、倒置など、レトリックの勝った歌が多い。推測に推測を重ねるのだが、拾遺の歌だったとすると、レトリックの多い歌を、いったんは捨てようとしたと見られる。「現実の相に根を張り、自己を強く打ち出す」、「青垣」の理念に沿おうとしたのだろうか。
引用

 以下に7首を引く。
(うみ)低く一群の鷺啼きながらいづくに向ふ風花のなか
冬の夜の暗きねむりに落ちゆくと雉らもあれやその雪炎に
玄冬の斑(ふ)に美しき雉鱈を火に煮ることも生(いき)のやしなひ
絶間なき小雀(こがらめ)のこゑひびきつつ玻璃やうやくに青し昏れつも
木苺の花のしろたへのあはれさはちかぢかとみむ吾がまなさきに
手術終へ扁たくねむる吾が妻の額の汗をぬぐひ立ちたり
「暁に祈る」リンチの惨虐も今日に憤(いか)りて明日は忘れむ
0-03
 写真ACより、「アールデコ・パターン」の1枚。



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