風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

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反戦

 新潮社の「川端康成文学賞 全作品 Ⅰ」(1990年・刊)より、1981年・受賞の竹西寛子「兵隊宿」を読み了える。
 先行する野口冨士男「なぎの葉考」は、先の7月28日の記事にアップした。

 リンクより、関連旧記事へ遡れる。

 「兵隊宿」は、港に近い町の、部屋数の多い民家に、出港する前の兵隊が次々と泊まる話である。息子のひさし少年の目で描こうとするが、作家が直接描く場面もある。
 将校や兵隊たちに同情的である。戦争を美化するのかと、敗戦後すぐには、許されなかったストーリーだろう。1981年となり、反戦の風潮も緩んできたのだろうか。少年の目、母親が兵隊の行く末に胸を痛める思い、小母さんの庶民感情の言葉、によってようやく成り立っている。
 僕も71歳の死に近づく(人生100年とすると、30年あるが)歳になって、この小説を許せる気がする。
 多くの読者は、竹西寛子の名前を知らないだろう。1985年・受賞の田久保英夫となると、マニアックな読者しか知らないだろう。僕は野口冨士男の名前を知らなかった。世の移り行きと共に、読書の嗜好も変わり、古く忘れられる作家があり、新しく注目を集める作家が生まれる。



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 イラストACより、鉢植えの1枚。


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 土曜美術社出版販売の新・日本現代詩文庫150「山田清吉詩集」より、7番めの「自然生死」全篇を読み了える。
 先行する「土偶(でこんぼ)」(抄)は、今月16日の記事にアップした。



 「自然生死」は、2019年、土語社・刊。31編と、あとがきを収める。
 第Ⅰ章では曾孫や食欲の話から、自分の葬儀の話に移る。
 「早稲田」では、「不可思議である 田んぼの力 奇怪千万/百姓の己
(うら)何をした なんもせなんだ」と、大地の恵みを歌う。
 第Ⅱ章では、原発事故から反原発を歌っている。「他人事に非ず」で、「命より金じゃ 金じゃ 金狂い/憲法なんか糞くらえ」と、恐ろしい世相を表す。
 第Ⅲ章では、戦時下体験から、反戦を歌う。「探し物-其の一」「同-其の二」では、捕虜虐殺の写真を見た体験から、戦争の残忍さを描いている。
 なお「自然生死」は「じねんしょうじ」と、読むと思われる。
 この後のエッセイ3編、3氏の解説5編の感想は、省略する。
原発
写真ACより、「原発」のイラスト1枚。

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 土曜美術社出版販売の新・日本現代詩文庫150「山田清吉詩集」より、「べと」全篇を読み了える。
 新・日本現代詩文庫の受贈は、先の6月23日の記事、入手した5冊を紹介する(5)にアップした。



山田清吉詩集
 アンソロジー詩集の、表紙写真を再掲する。ビニールカバー付き。

 第1詩集「べと」は、1976年、木立ちの会・刊。16編を収める。
 なお「べと」は、「泥」「土」「粘土」の意味の方言である。今ネット検索すると、新潟県、富山県、石川県、福井県、長野県、静岡県、岐阜県、愛知県、奈良県、鳥取県、愛媛県の、それぞれ1部地域で使われるとある。
 「べとなぶり」の語もあり、「土いぢり」の意味で、「園芸」「陶芸」を指し、謙譲語めく。

 詩集「べと」には、働き詰めで田で倒れた父など、農民の苦しみと共に、「列島改造論」による農地転用によって、田畑が高額で売れて戸惑う姿も描かれる。
 また戦時下空襲後の様を描いて、後に明らかになる反戦のテーマが始まる。
 今、卒寿を越えられた山田清吉の、長い労働と思索・詩作の始まりである。


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 2月14日午前10時より、和田公民館にて、和田たんぽぽ読書会が持たれた。
 前回の同(3)新年会をかねて、は先の1月15日の記事にアップした。



奥のほそ道 リチャード・フラナガン
 今回の課題図書は、リチャード・フラナガン「奥のほそ道」(渡辺佐智江・訳、2018年・白水社・刊)。454ページ。

 僕はこの本を、ほとんど読まなかった。当事者ではない著者であり、僕は敗戦者の子として、おびやかしは感ずるけれども、これからの反戦に役立つか疑義があった。

 戦争は苛酷であり、戦後も幸せになれない(ベトナムより帰還した米兵など)。それなのに内戦という戦争は、今も熄まない。
 著者と訳者の間合いが良い(翻訳が優れている)との意見も出た。
 イギリスの文学賞、ブッカー賞を受賞している。

 僕は自作のパンフ「決定版Ⅸ 方言集」を配り、属する同人誌誌「青魚」の最新No.91の1冊を回覧に差し出した。
 次回の課題図書、藤田宜永「愛の領分」を配り、あと始末をして、12時近くに散会した。


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堀米好美 いのち
 今年4月23日の記事「入手した6冊」で報せた内、堀米好美・歌集「いのち」を読み了える。
 Googleアナリティクスの本は別として(第4章までの基本を学べば良いらしい)、最後まで残った本である。
概要
 2016年9月30日・刊の歌集「祈り」(現代短歌社)に次ぐ。
 kindle版:2017年9月21日、22世紀アート・刊。定価:1,000円。
 kindle unlimited版:追加金無料。大手出版社ではない、独立系・出版である。
 著者は1936年・生。「短歌21世紀」「ヒムロ」会員。
 千一首の大冊で、読み通すのに難儀した。
引用と感想
 ハイライトとメモの利く歌集だったので、タブレットで線引きと感想メモを残し、それを7首のみに削って、以下にまとめる。

筆書きの子より受けたる御年玉仏壇にあり今朝も目にする
 前の歌も含めて、戸惑い、寂しがっている。気になって仕様がないのだろう。
原発も津波も遠き吾が丘もダム近くして崩壊危し
 災害の多い世になった。異常気象、地殻変動、人災など。
追ひつきて更に追ひつき凱旋の「なでしこジャパン」誇らしきかな
 簡単に諦めてはいけない。女性の地位向上も示していた。
暮れきたる庭に明るき黄のひかりニッコウキスゲの何時しか生ひて
 写生的で自然な、優れた1首だと思う。
彼の日より七十年か戦なき世を守りたる人ら老い来ぬ
 実感の籠もる反戦歌である。
離り住む父送りゆく九歳は背を見つめゐて吾に応へず
 息子の単身赴任だろうか、家族皆に苛酷な事である。
吾何を為すべき今か為し得るかいのち燃やさむ背筋なほ立つ
 老いの一徹である。敗戦の日を知る者として、「安保法」反対など、権力批判を繰り返し詠っている。


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