風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

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幸運

 青木祐子の小説「コーチ!」を読み了える。副題は「はげまし屋・立花ことりのクライアントファイル」である。到着は今月7日の記事、届いた3冊を紹介する(14)にアップした。

 これでその3冊を読み了えた事になる。
 リンクより、彼女の「これは経費で落ちません!」シリーズの感想へ遡れる。



 「コーチ!」は、講談社文庫、2021年3月・刊。
 彼女もブログ「まわり道の回想」で、「迷いながら書いた」とある通り、すっきりした小説でなかった。
 依頼者は、派遣社員から転職を考える24歳女性、小説家志望の33歳独身女性、ネットビジネスでの成功を狙う36歳男性、などがオンラインはげまし屋の、ことりのクライアントになる。それぞれ成功へ前向きになる所で、1話がおわる。決して成功の場面に至らなく、サクセスストーリーともファンタジーとも呼べない。
 生きて行くには、営業のはげまし屋など無用だと考える。各人の処世術(粘り、忍耐、慎重さ、メモの習慣、嫌な人には面従腹背、耐えられない日は休む)を覚え、幸運(僕の場合は、短歌との出会い、近親者の援助)を掴み、一人一人が苦境から脱出して行くしかない。悪党もいるが、必ず挫折失敗した。人の助けなしに、成功は続かないからである。僕はヒラの現場職員として、63歳まで働いたが、自分と家族のために、そうするよりなかった。リタイア後は、悠々とではないが、自適の生活を送っている。
 虚構の小説と納得しているから、青木祐子にも腰を据えた、きりの良い小説を書いてほしい。



ネール蓮
 「花はす公園」より、「ネール蓮」の1枚。

 



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 春秋社の谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」第3巻(1978年・5刷)より、長編小説「ゴオドン・ピムの物語」の2回めの紹介をする。
 1回めの紹介は、昨年12月3日の記事にアップした。


 今回は、第4章~第8章、173ページ~215ページの、43ページを読んだ。帆船式の捕鯨船グラムパス号に、バアナアド船長の息子オウガスタスの友情で、主人公ピムが紛れ乗り込み、苦難に遭う物語である。
 船倉に閉じ込められたピムに、オウガスタスが長く会いに来れなかった理由は、船員の反乱があって、船長たちをボートに載せて追放してしまったからである。反乱者たちも運転士派とコック組に別れて、争っていた。オウガスタス、ピムに親切にする少数派のコック組が、多数派の運転士派を奇策で倒すが、嵐が襲い船が浸水する事態に陥る。
 冒険物語にありがちな、多くの幸運を取り込んでいる。また帆船が嵐に遭った場合の対処法を、長々と述べたりする。彼らは大型帆船に救われ、ある地に上陸するようである。先走りは、ここまでとする。
帆船
写真ACより、帆船のイラスト1枚。




 
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 先の11月13日の記事、和田たんぽぽ読書会(1)のしまいに、12月読書会の課題図書、森絵都「風に舞いあがるビニールシート」を渡された。県立図書館には、読書会用などに、同じ本を10冊くらい貸し出すシステムがあるようだ。
 

風に舞いあがるビニールシート
 「風に舞いあがるビニールシート」は、森絵都(もり・えと、1968年・生)の短編小説集である。6編を収める。
 313ページの大冊なので、表題作のみを読めば良いのかと、世話してくださったMMさんに問い合わせた程である。全編を読んで、読書会をするとの返事だった。


 「風に舞いあがるビニールシート」は、2006年、第135回直木賞を受賞した。
 「器を探して」では、ケーキ作りに才能を発揮し脚光を浴びるヒロミに、クリスマス・イヴの日まで出張を命じられて逆らえず、恋人の求婚の機会までなくしそうな、弥生を描く。カリスマ的人物と、惚れ込んだ部下の、心理の綾が面白い。「無論、気がするだけの話で、現実はそれほど悠長なものでもないだろうけれど。」と、お喋りの文体が入る。
 「鐘の音」は、仏像修復師から挫折した本島潔が、25年ぶりに元の作業場に元・弟弟子を訪ねるまでを描く。芸術に関わりがあると誰でも、芸術か生活かの岐路があるものだが、本島は生活を選んで幸福を得たのである。
 「ジェネレーションX」では、世代の違う2人の男性が、偶然の幸運に遇うまでの物語である。このような幸運があってもいいと思わせる。
 表題作の「風に舞いあがるビニールシート」は、国連難民高等弁務官事務所に勤め、現地で活動する事の多いエドと、結婚し離婚した里佳が、エドの没後、エドの最期の様を知り、アフガンへの派遣を受諾する場面で終わる。ハードなテーマだが、作家は生活を描くだけでは耐えられなかったのだろう。


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 福井県俳句作家協会「年刊句集 福井県 第57集」より、6回めの紹介をする。
 今月8日の記事、同・(5)に次ぐ。
概要
 僕はこのアンソロジーとの出会いを、幸運だったと思う。身近な、短詩型との出会いである。同じ県内で、信仰があるも無いも、真宗王国の風土であり、山・田畑・海に豊かである(原発銀座を問題視する人もいる)。また昨年1年間の作品であり、世調を映している。
 毎年3月後半、協会の事務局長方へ葉書を出すと、郵便振替の伝票を付して、1冊を送ってくださる。
感想
 今回は、鯖丹地区(鯖江市、越前町、池田町)の13ページ、26名の260句を読んだ事になる。
 新しい句材を求める事は重要だ。プラス面だけでなく、マイナス面(過疎化・等)を含めて。高齢化を映す吟に感慨がある。
 また古くからの句材を、新しく吟じ直す法もある。
 僕は旧かな・古典文法の短歌を24年間続けた(今は新かな、現代文法で詠んでいる)ので、分かるのだけれども、稀に用字・文法に誤りがあって、避けられなかったかと少し残念である。
引用

 以下に5句を引く。
星流る遠き父母姉弟(T・晶子)
天仰ぎ地を這ふ仕種獅子頭(O・真由美)
直播きの植田のそよぎまだ疎ら(K・節子)
夏草の怒涛や誰も住まぬ家(H・幸美)
父になき齢を生きて年の酒(K・和典)

0-37
写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。




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87
 先の10月30日の記事「届いた4冊」で報せた内、3冊目の、同人詩誌「青魚」N0.87をほぼ読み了える。
概要
 2017年10月25日、鯖江詩の会・刊。32ページ。参加者18名が、詩、評論を寄せている。
 B5判、2段組み。最近はほぼ年に2回の刊行を続けている。作品数に制限はない。
感想
 アメリカからワンベアー・H・幸子さんの詩「うどの大木」は、秋の花と木や、日本にはない植物回収車を描いて、風土を表わす。
 T・幸男さんは、「錯覚」を始め4編を、下段に写真・新聞記事切り抜きを添えながら、4ページの掲載である。東京都との往復(庭師として)は、82歳となり止めたようだが、彼の咆哮を聞き続けたい。
 K・大典さんは評論「戦前に回帰(文学は冬の時代に入るのか)」2ページで、時代への恐れを書いている。現に、僕の身近な詩人が活躍していたのに、詩を辞めてしまって、時代の影かと思ったものだ。
 A・雨子さんの評論「福井に生きた女性詩人」では、最近に逝いた福井の女性詩人2人を巡って、3ページあまりに渉って述べ、自説を展開する。
 僕のソネット(14行詩)4編は、もう1つのブログ「新サスケと短歌と詩」の、10月31日「言葉それぞれ」以降、わずかに改稿しながら毎日1編ずつ紹介している。
引用

 K・文子さんの「虫とバラ」では、薔薇に虫が付いていても放っておいたら虫がいなくなって、
「ああよかった
なんにもせずともすんだ
かわいい花をいっぱい咲かせてくれた
虫もいやな薬をかけられずにすんだ」
 と締めて、幸運な結果を描く。



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