風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

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新作

 思潮社の現代詩文庫181「続続・辻征夫詩集」より、未刊詩篇15編を読み了える。
 先行する、詩集「萌えいづる若葉に対峙して」は、今月25日の記事にアップした。

 リンクより、関連過去記事へ遡り得る。

 未刊詩篇の内、新作は1996年~1999年の5編である。
 「蟻の涙 2」は、詩集「萌えいづる若葉に対峙して」の「蟻の涙」に対応する。「蟻の涙」では、「きみのなかに残っているにちがいない/ちいさな無垢をわたしは信ずる」とあった。「同 2」では、「このぼくのどこに/汚れていないもの/無垢があるというのか」と思いを反転させる。
 「穴の底」は、これも「萌えいづる若葉に対峙して」の第Ⅱ部、アリスやトム・ソーヤーら童話の主人公が中心の連作に、続く作品である。「オクスフォードの日暮れ」と同じ、明晰な墜落感を表す作もある。
 「おばさん思い」は、詩集「ボートを漕ぐおばさんの肖像」と同じく、胸内に住むおばさんへのオマージュの連作である。
 このように、仲間内でよく理解できる作品の発表は、卑しい(堕落だったか)と書いた詩人がいた。僕は既に読者仲間の身内なので、いささかの快さを感じた。
 初期未刊詩篇10編は、1957年~1971年に渉る。
 未刊詩篇が少ないのは、1編をよく練って、満足するまで仕上げる寡作だかろうか。僕は書き殴って、すべて同人詩誌に発表し、それから選んで(推敲し)詩集を纏めるのだ。彼は僕より詩に真剣だったようだ。

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写真ACより、「建築」のアイコン1枚。



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 筑摩書房の「現代日本文学全集 補巻8 上林曉集」より、5編め「四国路」を読み了える。
 先行する「現世図絵」は、今月13日の記事にアップした。


 「四国路」は、1944年(昭和19年)の秋、9年ぶりに四国へ帰郷する物語である。不便な戦争末期で、帰路の困難や、郷土ひとの親切さが描かれる。1946年4月に文芸春秋へ発表の作品だが、しかしこれまで戦争末期を描く短編小説ばかりである。
 石坂洋次郎の「青い山脈」(1947年・刊)とまで言わなくても、永井龍男の「風ふたたび」(1951年・朝日新聞・連載)くらいには、時世に乗って、戦後を明るく描いても良かったのではないか、と考える。なぜ敗戦の直前・直後の暗い部分に執着したかわからない。短編私小説の作家として、動じないものが内にあったのだろうか。
 短編小説家の常として、新作の発表に追われる。「風致区」(1946年1月)、「きやうだい夫婦」(同・2月)、「嶺光書房」(同・1月)、「四国路」(同・4月)発表と、毎月1編のように発表した。
 「四国路」で400字原稿用紙、約29枚である。短編小説の稿料は1枚あたり低かったのだろうか。短編小説の名手と謳われた三浦哲郎でさえ、長編小説へ挑戦し、引き下がった。(自分でそう書いた)。
 短編小説の作家が、ポオ、フィッツジェラルド、O・ヘンリなど(戦前日本の短編私小説作家は知らない)悲惨な晩年だった。ストレスが多く、酒に頼ったからだろうか。
 上林曉(かんばやし・あかつき、1902年~1980年)は、1962年に2度めの脳出血で半身不随となりながら、実妹の介護と口述筆記で作家生活を続けられた。正岡子規と妹・律の場合とたぐえられ、文学の生涯を全うした。
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 写真ACより、「ビジネス」のイラスト1枚。





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 角川ソフィア文庫「西東三鬼全句集」より、第2句集「空港」を読み了える。
 第1句集「旗」は、今月10日の記事にアップした。



 句集「空港」は、1940年6月、河出書房「現代俳句」第3巻に所収。句集「旗」より抜いた句に、新作を加えてある。なお同年8月、京大俳句弾圧事件で検挙された。

 なお「空港」の内、どの句が「旗」の抜粋であり、新作であるか、腑分けする労を取っていられない。
 「旗」の自序に、「或る人達は「新興俳句」の存在を悦ばないのだが…。私の俳句を憎んだ人々に、愛した人々にこの句集を捧げる。」と、新興俳句の旗手として揚言した。
 「空港」では、内を「空港」と「戦争」の2章に分けた。生活吟では負のイメージの句が多い。
 戦争吟では、かなをカタカナとし緊迫感を出すとともに、新感覚派的スタイリッシュ性がある。

 以下に5句を引く。
海鳴りの晦きにおびえ氷下魚釣る

 (筆者注・氷下魚は、コマイと訓み、タラ目の魚)
主よ人等ゆふべ互みにのゝしれり
緑蔭に三人の老婆わらへりき
湖を去る家鴨の卵手に嘆き
戦友ヲ葬リピストルヲ天に撃ツ
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写真ACより、「アジアンフード&ドリンク」のイラスト1枚。




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 Amazonに予約注文していた、村上春樹の新作小説「騎士団長殺し」第1部、第2部、2冊が昨日(2月25日)の昼に届いた。
 上の写真は、「第1部 顕れるイデア編」のカバーである。
 単行本の新刊を買うのは、マニュアル本か、村上春樹の小説のみとなっている。
 このブログで前回のアップは、長編エッセイ
「職業としての小説家」(新潮文庫)を今年1月12日に紹介した記事である。
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 上の写真は、「第2部 遷ろうメタファー編」のカバーである。
 2017年2月25日、新潮社・同時刊。
 まだ「第1部」の初めのページしか読んでいないが、ファンタジックな長編小説のようである。
 1冊ずつ、読みおえたなら、ここで紹介してゆきたい。


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