風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

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沖積舎

 沖積舎「梅崎春生全集」第2巻(1984年・刊)より、8回目の紹介をする。
 
同・(7)は、今年5月23日の記事にアップした。
 今回に僕が読んだのは、「猫男」、「傾斜」、「一時期」の、3短篇小説である。
 いずれも1948年(昭和23年、敗戦後3年目)の初出である。戦後だが、僕の誕生の前だと思うと、不思議な気がする。
 「猫男」は、口からは出まかせの嘘も言い、偽りの行ないもして、社会の底辺を渡る中年男を描く。どの社会にも、一人はいるタイプの人物で、その卑怯さを作者は注視している。
 「傾斜」は、クリスチャンで闇屋の鬼頭鳥子、娘の花子、太郎の家に間借りする事になった「彼」が、気づくと部屋は馬小屋と隣り合っていた、という話だ。鳥子の矛盾(?)、花子の顔の火傷、子供ながら博打をする太郎、「彼」の戦時体験など、混乱の残る世界を描いている。
 「一時期」は、戦中の役所で、若手ばかりの仲間が、日中から隠れて博打をしたり、飲み屋に行列したりする話である。設定は梅崎春生と合うので、幾らかは事実だったかも知れない。彼らには徴兵、更には敗戦まで、予感されていたのかも知れない。
 第2巻で残るのは、あと4短編小説である。読み了えたなら、ここで紹介したい。
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写真ACより、「お花屋さん」のイラスト1枚。


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 青磁社「永田和宏作品集 Ⅰ」(2017年5月・刊)より、第2歌集「黄金分割」を読み了える。
 今月26日の記事、
第1歌集「メビウスの地平」に次ぐ。1977年10月、沖積舎・刊。
 「黄金分割」とは、2:√5+1に分割する(ほぼ1対1、618)事を指し、長方形の縦と横との関係など安定した美感を与える比とされる(電子辞書版広辞苑第6版より)。
 2子(長男・淳、長女・紅)を得て、新婚の性愛が薄れたか「胸の首夏・心の晩夏こもごもに愛の終りを推り合いつつ」の歌がある。無給の研修員(妻と子二人)ながら、研究、塾講師、作品・評論の執筆と、「この時期から数年間がもっともよく働いた時期かもしれない。」と年譜で述べる。
 また歌集出版ととほぼ同時期に、評論「問と答の合わせ鏡」を「短歌」に発表して、有名な「合わせ鏡理論」を始める。
 「黄金分割」の巻末に、4章からなる連作「首夏物語」があり、弟殺しを主な主題とする。しかし年譜に拠れば、彼に弟は居ず、自身の少年性を殺すテーマがあったかも知れない。また4歳で母と死別し、継母に妹が生まれており、複雑な想いがあったのかも知れない。
 以下に7首を引く。
窓に近き一樹が闇を揉みいたりもまれてはるか星も揺らぎつ
かなしみが夕映えのごとふさふさと身に相応(ふさ)うまで誘われてゆけ
酔うためにのみ飲むごとき夜幾夜、子あり妻ありゆきずりのごと
わがうちにのみ母として居給うか無蓋貨車とおく野をよぎりゆく
夜の窓に撓みて水のごとき樹々 ことばやさしくわが拒まれぬ
身の内に滅びしものは告げざるを肉はきりきり風に吹かるる
向日葵を焚けば地平は昏みつつ故なく憎まれ来し少年期
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写真ACより、「お花屋さん」のイラスト1枚。




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 沖積舎「梅崎春生全集」(全8巻)の第2巻より、7回目の紹介をする。
 
同・(6)は、今年3月21日の記事にアップした。
 今回に僕が読んだのは、「青春」「虚像」「ある男の一日」の3短編小説である。
 「青春」は、旧制高校だろうか、仲間内で卒業に失敗した二人のみ、「ぼく」と「城田」が、飲み屋で落ち合ってヤケ酒を飲み、阿蘇山に行こうと(熊本高校生だろうか)、タクシーに乗る。「城田」は途中で降りてしまい、「ぼく」も先の途中で降り、うどん屋でさらにお酒を飲む。店主の女と1夜を共にして、翌朝独りで出掛けようとする所で終わる。のどかな時代の、暗い話だ。
 「虚像」は、台湾に兵だった「高垣」に内地から、恋文を寄越した「幾子」を、戦後の電車内で見掛けるが、注視も声掛けもせず、心理的にあれこれ思うのみだったストーリーである。戦争の心の傷が、薄らぐ時期だっただろうか。
 「ある男の一日」は、裁判所に証人として出廷した男が、「良子」という娘を喫茶店に1時間半も待たせたあげく、映画を観るのだが途中で映画館を出て、別れてしまう話だ。戦争のエピソードは無いが、これも戦争の傷跡がさせるストーリーだろうか。
 いずれも1948年に発表された短編である。
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写真ACより、フラワーアレンジメントの1枚。



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 沖積舎「車谷長吉句集」改訂増補版を読みおえる。
 
三月書房よりの取り寄せは、今月22日の記事にアップした。
 なおその時、彼の小説集「鹽壺の匙」を捜したが見付からなかったと書いたけれども、1月24日の内にその新潮文庫を見付けた。
 句集は、2005年・刊。約300句。自筆署名あり。
 車谷長吉(くるまたに・ちょうきつ、1945年~2015年)の俳句を、筑紫磐井は解説で、遊俳(やや余技めいた、浮世離れした句作)とし、業俳(専門俳人の句作)と異なるとする。車谷長吉の小説の素材から成っている、とするが彼の業は小説かと述べており、僕の読後感にも、因業な句は少なかった。
 以下に5句を引く。
大葬のしゞまを破れ寒鴉
名月や石を蹴り蹴りあの世まで
秋の蠅忘れたきこと思ひ出す
大根を洗ふ手赤し母は後家
風さかる二百十日の隅の蜘蛛



 
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