風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

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自己救済

 短歌結社「コスモス」内の若手歌人による季刊同人歌誌、「COCOON」Issue20をほぼ読み了える。
 到着は、今月7日の記事、届いた3冊を紹介する(14)にアップした。

 リンクより、旧号の感想へ遡れる。

COCOON Issue20
 感想として、皆が大人しくなったなあ、という印象がある。オリンピック以後という、嵐の前の静けさなのか。同人が大人になったのか。1965年以降生まれの仲間を同人としており、代表のO・達知さんは57歳になる。
 異端の(これは褒め言葉である)S・ちひろさんは、「約十年続いた過食嘔吐だがこの半年はぱたりと止まる」と、心理的にも身体的にも、安定したようだ。
 この大人しさが、短歌による自己救済であれば良いのだが。

 特集「この頃気になる歌/ずっと気になっていた歌」では、29名が2首ずつを上げ、気になる理由を短く(1人1ページ)述べている。若い歌人が関心を向ける短歌がわかる。その他、散文を含め、バラエティある構成である。
 121ページ、上質紙という、僕の所属する「覇王樹」よりも、ページ数多く、贅沢な造りである。月刊結社誌以外に、発表の場を持つのは好いことだ。人間関係に疲れるので、僕はある誘いに乗らず、ブログ「新サスケと短歌と詩」で(読者は少ないが)短歌の公開を続けている。

 「COCOON」では、若い歌人の入会もあり、隆盛なようである。古希過ぎのおじさんは、発展を見守ってゆきたい。





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 僕の所属する結社「覇王樹」の顧問、渡辺茂子さんより、第3歌集「アネモネの風」を贈られていた。到着は、先の6月5日の記事にアップした。

 リンクより、第2歌集「湖と青花」の感想へ遡れる。

渡辺茂子「アネモネの風」
 第3歌集「アネモネの風」は、2021年5月31日、不識書院・刊。427首、著者・あとがきを収める。新輯覇王樹叢書第231篇。
 初読の時には、良さがよく分からなかったが、最近読んでみると、付箋を貼った歌だけで無慮24枚。感慨の深い歌ばかりだった。
 「歌は自照の文学、即ち、人生如何に生きるかの追求である」との師の言葉を胸に、歌作に励む日々、とあとがきにある。「老照の歌」「残照日記」の句の所以だろう。
 「詩歌の覚悟」とまた「自負も悔悟も」とも詠む。しかし夫と確執のあった息子は和解し、孫にクッキーを焼くを楽しみとする。猫を飼い、毛糸編み、ビーズ編み、裁縫等に没頭する1面も持つ。
 旅に出る事もあり、旅行詠をよくする。
 僕は「歌は自照の文学」と思わず、「短歌は自己救済の文学である」との言い伝えを信じ、生活詠を続けて来たのみである。

 以下に、上に上げた以外の歌から、7首を引く。
自画像も月日と共に変はり来て見えざる己の闇にをののく
海渡る蝶のいのちに立ちつくす伊良子岬の白き渚に
立葵ひたに伸びゆき廃帝を守りし裔の額
(ぬか)清かりき
四万十の沈下橋ひとり渡りゆく風となり水のことば聴きつつ
駅までを抜きてゆきたる幾人か皆美しき背
(せな)そよがする
ふるさとの夕焼空が恋しきと心弱りを姉よ語るな
夫に焼く一匹の鮎ぬめぬめと係恋はすでに遠くなりたり






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 本阿弥書店の綜合歌誌「歌壇」2019年10月号を、ほぼ読み了える。
 到着は今月18日の記事、入手した4冊(4)にアップした。

3・歌壇・10月号
 特集は「平成の事件と短歌」である。
 総論として、三枝昂之「「品格」が流行となるこの国の暮れ」。重大事件の他に、岡井隆の敗戦革命を否定する歌、平成不況の失われた20年、沖縄問題、高齢化の介護問題をも、今後を見据えて論じている。
 6名による「記憶に残っている事件詠10首選」と短文。良くも悪くも、当時の短歌は勢いがあった。令和時代となって、忖度するのか、公言しない。
 座談会「平成の事件と短歌 ―地下鉄サリン事件を端緒として―」。年代の違う男女2人ずつが、平成の時事詠を論じる。連合赤軍の坂口弘やオウム事件死刑囚の中川智正の歌を取り上げて「短歌という形式は、自己救済につながってしまうんじゃないか」と、議論されたという。短歌に救いを求める僕には、ショッキングである。吉川宏志は、「集団に入ることによって、自分たちだけ救われればいいと考えることは、何か邪悪なものを生み出してしまう、ということは、この事件から学んだ気がします。」と述べて、暗に結社や歌壇を批判するかのようである。
 時事をほとんど詠まず、生活を詠み続けた僕の歌にも、重大事件の影は及んだと思う。

 付箋を貼った数首があり、紹介したいけれども、ここで僕の感想を了いとする。



 

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